第5話 危なっかしい転校初日
時雨とルンルン気分で登校し、職員室に行った後、担任に誘導され教室の前に立つ。登校途中、様々な生徒から視線を感じた。この視線にも、慣れないといけないのだろうか。
担任が合図を出し、私は教室に入る。教壇の上から見下ろすクラスメイトは、様々な顔をしていた。惚れるようにぼーっと見つめる人や、品定めする人、いやらしい目で見る人もいる。どれも全て想像の範囲内なのだが、それらしい顔はしている。
「初めまして、月島白といいます。よろしくお願いします」
ぺこり、とお辞儀をすると同時に拍手が起こる。緊張したが、拍手が起こって以降はやり切った感の方が強かった。
席は廊下側の1番端、1番後ろの席。元々
んで、私の左の席の美少女が
「これからよろしくお願いします。霧ヶ谷さん、花園さん」
朝のSHRが終わり、早速2人に話しかける。少しでも早く友達は作っておきたかった。
だが、なぜか私が声をかけても、霧ヶ谷さんはぼーっとしているし、花園さんはじっと私をにらんでいる。私、何か悪いことをしたのだろうか。
「あ、あの……私、なにかよくないことをしましたか?」
「あ、あぁううん!!なんでもない!私は霧ヶ谷優芽!趣味はゲームで……ってあれ?なんで月島ちゃん、私たちの名前知ってるの?」
やば、さっそくぼろが出た。そりゃ知ってますよ、もともと同じクラスなんですから。とは言えない。まぁ、ここは無難に
「先生が事前に教えてくれたんですよ。なんでも、周囲の人間の名前くらい知っていたほうが、友達もできやすいらしくて。もし驚かせたなら、すみません」
「ううん!全然。あ、そうだ。こっちが麻音ちゃん。目つきとかで怖いっていう子が多いけど、優しいからね!警戒しないであげて」
「ちょっと、優芽。私は月島さんと仲良くする気なんか……」
「いいからいいから。麻音ちゃんもほら、自己紹介!」
意外だ。優しくて誰にでも合わせられる霧ヶ谷さんが花園さんをリードしてる。イメージとは全く違う感じだ。花園さんがやれやれといった顔をしているし、いつもこんな感じなのだろうか。結構グイグイくるんだな、霧ヶ谷さんって。
「花園麻音。基本的に優芽と行動してる。よろしく」
実は、霧ヶ谷さんと花園さんは付き合ってるんじゃないかという噂がある。私は元々信じていなかったが、花園さんのこの発言から、案外本当なのかもしれないと思ってしまう。
「私のことは優芽、麻音ちゃんのことは麻音って呼んでいいからね!さっ、月島ちゃんも自己紹介して!!」
花園……麻音さんが何か言いたげにしていたが、優芽さんの笑顔に屈したのか抵抗するのを諦めた。
「えっと、月島白です。訳あって転校してきました。とりあえず、お二人と仲良くなれればなと思います。よろしくお願いしましゅ……あっ」
私が噛むと、2人から笑みが溢れる。肝心なところで噛むのは、ちょっと恥ずかしい。でも、2人の空気も和らいで、結果的にはよかったのかなとも思う。
「笑っちゃってごめんね。あと、そんな堅苦しくしなくても平気だよ。もう友達みたいなものなんだし、気楽にいこ。ね?」
優芽さんが麻音さんに視線を送ると、麻音もうなずく。どうやら、友達作りには成功したらしい。しかも、美少女2人。学校生活の幕開けは、かなり快調みたいだ。
「ありがとうござ……ありがとう、優芽さん、麻音さん」
帰りのSHRが終わった。転校生が必ず通る、クラスメイトからの質問ラッシュをなんとか潜り抜け、今ここに立っている。危なかったところといえば、移動教室の時に普通に移動しようとして、なぜ知っているのかと少し疑われた。しかしここは、お得意の「先生に教えてもらった」でどうにか乗り切った。初日からかなり危なっかしく、これからの生活が少し不安だが……まぁ、ある程度したら慣れるだろう。
そんな感じで、私が一人反省会をしていると、麻音さんから声をかけられた。
「あなた、この後暇?」
「えっと、暇だよ?」
少し威圧的な姿勢になぜか疑問形で返してしまったが、彼女は納得したようで、教室で待っているようにと私に告げてどこかへ行ってしまった。
私が知る限り、花園麻音という人物は、自分から誰かに関わろうとはしない。優芽について回って、その際に話す機会があったら話す。その程度なはずなのだ。それが今、なぜか転校初日の私に話しかけに来ていた。私がよく麻音さんのことを知らなかっただけなのだろうか。だが、麻音さんの雰囲気から、そうではないように感じる。
もしかしたら、私が白雨とバレているのだろうか。もし仮に、バレているとしたら、どこでバレたのだろうか。誰かにもう共有してしまっているのだろうか。頭の中で麻音さんに対する疑問が渦巻く。
だが、考えたところで、今目の前に本人はいない。私は大人しく待つことにした。
彼女を待ってどれくらいたっただろうか。時計を見ると……10分しかたっていなかった。どうやら、私は辛抱強くないらしい。少し歩いて探そうかと席を立った時、すぐそばで声が聞こえた。
「どこ行く気?」
それは紛れもなく、麻音さんの声だった。いきなり姿を消したと思ったら、私が席を立つのを咎めるように話してくる。いい気はあまりしなかった。
「いや、麻音さんを探そうと思って」
実は半分嘘だ。正直、見つける気はあんまりなかったし、暇になったから適当に探すふりをしながら歩こうかと思っていた。
「ふーん、まあいいや。座ってお話しましょ?」
強制力のある言い方に、私は簡単に従ってしまう。麻音さんは挑発的な笑みを浮かべながら、私の目の前の席に座る。その席は優芽の席だった。この教室に、2人以外はいなかった。
彼女は、目と口を三日月のようにゆがめ、私に語り掛ける。
「私、あなたが嫌いなの」
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