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パウンドケーキを楽しんだ後は、店長はご来店されたお客様にも試作品と言ってパウンドケーキを振る舞っていた。お客様からも好評で、早速翌日から提供を始めることにしたらしい。考案から提供までがあまりに早くて、そこがすごく店長らしい。
期間限定のみかんパウンドケーキが始まってからしばらくの間、僕は実物を見ることができなかった。
喫茶ゆずのきは9時から17時までの営業だ。16時45分ごろから整頓を始めて、閉店時間ギリギリまでお客様がいらっしゃらなければ、17時10分には帰ることができる。
「お疲れさま!柳くんも佐伯くんもあがっていいよ!」
「ありがとうございます!レジ締め以外は終わっていますので、よろしくお願いします!」
「お先に失礼致します。」
「はあい、お疲れさま!」
その日も柳さんと僕はいつも通りの時間に帰り支度を始めた。
「佐伯くん、この後用事ある?」
「いいえ、特にはないです。」
「それなら、一緒に見に行きたいものがあるんだけど、どうかな?」
「いいですよ、行きましょう。」
柳さんは、こうしてよく仕事終わりに色んなところに連れて行ってくれる。今日はどこへ行くのだろうか。
「う〜ん、かなり寒くなってきたね。歩くの辛くない?」
肩を縮こませながらそう言う柳さんに、
「僕は大丈夫です。かなり厚着してきましたから。」
マフラーにニット帽、手袋までした僕は答えた。
「失敗だったなぁ、俺もマフラーくらいは持ってくるべきだった。」
「どこか温かくなる場所に行きますか?それとも、もう目的地は決まっていますか?」
「いや、まだ決めてなかったんだけど」
そこで柳さんは少し考え込んだ。
「佐伯くん、車酔いする人?」
「いいえ、あまりない方だと思います。」
「それなら、もう少し歩いたら俺の車あるから、ドライブはどう?」
「いいんですか?運転させてしまうの申し訳ないです。僕免許を持っていないので交代もできないですし……」
「いや、気にしないで。ゆっくり音楽聴きながら喋ったりとかするのもいいよな、と思ったからさ。車乗る前にコーヒー買ってもいい?」
「もちろんです。」
コンビニで柳さんはホットコーヒーを、僕はホットカフェオレを買った。ひとくちで食べられるようなチョコも買った。
「何か他に欲しいものはありますか?」
「これも買おうぜ!」
手に持っていたのは、数枚のホットマスクだった。アイマスクと、首に貼れるようなタイプもあるようだった。
「いいですね、柳さんが休憩したい時に活躍してくれそうです。」
「だろ?これがあるだけでかなり休まるからな〜。」
柳さんの車は落ち着いた緑色だった。車には詳しくないので車種とかはわからないけれどかっこいいと、柳さんが運転席に座る前から、きっと似合うだろうなと思った。
「さあ、どうぞ。」
「お邪魔します。」
車に乗り込むと、ふわっと優しい香りがした。やがてコーヒーの匂いと混ざり、すごく懐かしい香りになった。
「すごくいい香りがします。」
「本当に?照れるねぇ。」
本当に照れた様子の柳さんに少し笑ってしまった。
「佐伯くんが笑ってくれた!」
あまりに無邪気に言うものだから声を出して笑ってしまった。
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