第一章 僕は、
1
26歳を迎えた僕は、喫茶ゆずのき働いている。ビルの地下1階なので、隠れ家のようですごく好きな場所だ。内装は主に木が使われていて、物語に出てくる木でできたお家、という感じだ。レトロなソファーやゆったりとしたBGMのおかげですごく居心地がいい。
「佐伯くん、1番さんにお願いね。」
「かしこまりました。」
特に指定の格好はなく、クリーム色のエプロンをつけるのが制服というところも好きなポイントだ。
「お待たせいたしました。ホットの蜂蜜入りカフェオレとブレンドコーヒーでございます。」
「わぁ!いい香り。ありがとうございます。」
柔らかい笑顔をくださったのは、コーヒーのお客様。
「どうも。」
小さくお返事をくださったのは、カフェオレのお客様。
「どうぞごゆっくりお過ごしくださいませ。」
ゆっくりお辞儀をし、席を離れる。時間が早いこともあり、1番卓以外にはまだお客様はいらっしゃらないので急ぎ足にならないようゆったりと調理場に戻る。お客様の「温かいね」「美味しいね」と柔らかな会話がふわっと耳にかかる。
「佐伯くん、すごく優しい顔してる。」
「え、そうですか?」
「はちカフェ、飲みたい?」
「飲みたいです。顔に出てましたか?」
「いつもそれ運ぶ時、同じ顔してるんだよね。好きなの?」
「そうですね、ほっこりするので好きなんです。」
「確かに!俺も好きだわ〜。ホットもアイスもいいよね。」
洗ったばかりの片手鍋に2人分の牛乳を注がれ、チチチとコンロの火がついた。
「僕、初めてこのお店に入ってこれを飲んだ時に、この店に通いたいって思ったんですよ。」
「そうなの?結構前から好きだったんだねぇ。知らなかった。」
沸々としてきたら、蜂蜜を入れよくかき混ぜる。馴染んできたらコーヒーを入れてゆっくりと絡むように混ぜる。
「はい、どうぞ。」
「ありがとうございます。」
温めたカップに注がれた蜂蜜入りのカフェオレは、ほんのり甘くて柔らかい湯気を纏っている。持ち手以外がすべて熱いので、しっかり冷まさないと飲めない。
「今日はお客さんの入りゆっくりだし、奥で座って飲みな。」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます。」
猫舌の僕を気遣ってくれたのか、柳さんは調理場の奥にある椅子からダンボールをどかしてくれた。
彼は
「このダンボール、中身はみかんですか?」
「そうそう!次の限定メニューに使いたいんだって。」
「今回は何ができあがるのでしょうか。」
「なんだろうねぇ、ケーキとか甘いものなのかなぁとは思ってるんだけどね。」
中を見てみると小粒なみかんがぎっしりと詰まっていた。店長の柚木ひなた《ゆずき》さんが考案した期間限定のメニューには、大抵の場合果物が使われている。スイーツのことも多いが、フードになったりドリンクになったりと様々だ。
やっと熱が落ち着いてきたカップを口に当てる。程よく温かいカフェオレがゆっくり喉を通っていく。
「どう?美味しい?」
「はい、美味しいです。」
「そりゃよかったよ。」
ふたくち目は1番卓のお客様の様子を見てからにしよう、と立ち上がると勢いよくお店の扉が開いた。
「決めた!パウンドケーキ焼くぞ〜!」
今日も目が冴えるような眩しさだ。
「店長、おはようございます。」
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