ガチャでスキル転生引いたら、ゴミスキルの塊とペットな女神がついてきた件。

サプライズ

スキル転生

第1話 転生

「はい、次の人」


声が聞こえた。


その場所は市役所の受付のような所だった。

簡素で、ただ受け答えをするだけの場所。

周囲には靄がかかっていて、目の前にある受付以外はよく見えなかった。


どこだろう、ここは?

見覚えがあるような、ないような。


だが、周辺全部が靄に覆われている場所なんていうのは見たことない。

ありそうなのは…。


想像するのを一旦止めて、ひとまず目の前の受付をよく見てみるとそこには誰かが座っていた。


中性的な顔立ちをもった人物だ。

東洋系の時代劇での高官が着てそうな衣服を身にまとい、理知的なメガネをかけ、赤い髪を後ろで縛っていた。

そしてなぜか頭に角が二本生えていた。鬼のような黒くいびつな角だ。

目の色もよく見れば赤い。




目の前の人物は、手元にある紙束を眺めながら何かを待っていた。

ふと、何かに気がついたかのようにちらりとこちらをみた。


「ん? 次の人、あなたですよ。之業試練さん、こちらへ」


之業試練(このわざ・しれん)とは俺のことだ。

どうやら次の人とは俺のことらしい。


言われるがまま、俺は受付へと進む。


コスプレ男は一見して怖そうな姿をしているが、雰囲気や声色は落ち着いていて穏やかなものだった。


「状況をまだ飲み込めていないでしょうね。一つずつ話していきましょう。ここがどこだかわかりますか?」


ここがどこだって?

そりゃ、目の前に鬼のような人物がいるのだからあれだろうか?


「コスプレ会場?」

「いえ、違います。そんな回答する人初めてみましたよ」

「鬼をみたのは初めてですので」

「ええ、ええ。そうですね。確かに私は鬼です。そんなのが出てきそうな空間があるじゃないですか。ほら聞いたことないですか?」


鬼が出てきそうな空間…。


あ!


「…俺の心の中?」

「おまえは心の中に鬼をかっているのか」

「いや誰しも心の中に鬼がいるっていうし」

「生まれてこの方、そんな一家に一台みたいな扱いされたの初めてだわ。ええ。もういいです。私が答えましょう。ここは死後の世界です」

「ああ、やっぱり」

「おまえ地獄に落とすぞ」


まぁ、わかってましたよ。


真っ白で周辺がよく見えず、そして目の前には異様な雰囲気の男。

余りに現実離れした風景。それらは物語の世界に出てきそうな光景だった。


そして物語の状況に照らし合わせれば、ここは死後の世界が妥当だと思った。

一瞬、コスプレ男を用いたテレビのドッキリかと思ったが、そちらのほうがあり得なさそうだ。


「こほん。私の名は転生の神、閻魔。ここは前世と来世の狭間、転生の間」


そういって一呼吸をおいた。


「つまり、あなたは死亡しました」

「…そうですか」


死んだ、というのに心は驚かなかった。

信じたくはなかったが、こんな不思議な空間にいる理由として、頭の片隅に浮かんでいた。


そうか、俺は死んだのか。


「ここが、死後の世界…」


周囲をもう一度見渡す。


簡素な作りの受付場所。

散らかった資料に脇に置いてある栄養ドリンク。


なんというかな。

正直死期迎える場所としては最下位なのではないだろうか。

いや別に骸骨群がる地獄にいきなり出たかったというわけじゃないんだが。


「なんか、しょぼくね?」

「うん。社交辞令って知ってる?」

「そんなものは前世においてきました」

「私は君の来世が心配だよ」


もうちょっとこう、こうなんかなぁ。


「まぁたしかに、あなたの不満も理解できます。実は少し前までは、こんな粗雑な場所ではなかったのです。当時は一人一人玉座の間で対応していました。あなたが想像するような場所ですね」


死後、神が対応する場所。

荘厳で、偉そうな神がいて、なにかを告げる場所。


「…つまり、神が土下座待機している場所?」

「おまえ、神をなんだと思ってるんだ?」

「なんかいっつも謝罪してチートくれるような人かなって」

「とりあえず敬意のかけらもないことはわかったわ」


コホンと一息。


「話を戻しますよ。ここがこんな風になっている理由、それはですね。最近地球は死のあふれる世界になりました。なんたって人口はそろそろ80億ですからね。死も多くなります。それ故に今まで通りの対応では魂の処理が追いつかなくなりましてね。玉座の間はエネルギーを多く消費しますから、あの場所での対応は取りやめです。転生にも省エネを求められる時代になりました。あなたにかけられる時間もこの世界での10分ほど。前世でどれだけの人生を過ごしていようと、今では重めのカップラーメン二個作れば、新しい人生への旅立ちとなりました」

「…なるほど。」


80億。知らなかった。

人類繁栄してすみませんとでもいうべきだろうか。


いやけど、最後のカップラーメンの下りは余計じゃないだろうか。

工場生産される人生みたいでちょっと悲しいぞ。



ああ、そういえば気になることがあった。


「質問いいですか?」

「時間の許す限りはかまいませんよ。何でしょう?」

「死因はなんですか?」

「死因ですか」


自分が死んだ理由は気になる。先ほどから思い出そうとしているのだが思い出せない。


目の前の転生神である鬼の閻魔は手元にある紙をぱらぱらとめくる。

そして死因がかかれている部分を指なぞった。


顔を歪めて、顔に手を当てた。

なんだろう。そんなにもひどい死に様だったのだろうか?


「…シレンさん、覚悟して聞いてください。」

「…はい」


「あなたは、会社で憧れの先輩をデートに誘い、見事に三秒で撃沈。その光景を同僚に見られ、からかわれ、今後の会社生活に絶望。そして茫然自失となり、現実逃避。やけ酒を飲み、歩きスマホをしながら過去二年間お世話になっていた「恋してにゃんにゃん物語」というエロゲ画像で自分を慰めていると、ちょうど工事中のマンホールから警備員が目を離した隙にホールインワン。無事、死亡しました」


…。


…え?

ホールインワン?


「…えっと、それは嘘では?」

「嘘ではありません。事実です」

「そんな、そんなひどい転生話は聞いたことがないです」

「私も聞いたことがあまりないですね。私の記憶に残る死に様はなかなかないですよ。思い出の一ページにあなたが載りました。すぐに破り捨てますが」

「も、もう一度みてください。ひょっとして、車にひかれそうになっていた美少女を助けて死んだとかでは?」

「いいえ。むしろ美少女にひかれそうな死に様です」


「きゅ、急にダンジョンが現れて、そこのモンスターに殺されたとか?」

「恋という名のダンジョンで討ち死にはしてますね」

「そうだ! コンビニ強盗から身を守ったとか」

「それはお世話になっていたエロゲであったシチュエーションですね。意識混濁が見られるようです。自分を強く保ってください。大丈夫ですよ。きっとよくなります。もう死んでますけど」


「えっと…」

「試練さん、これが真実です。受け入れてください」


次なる言い訳はでなかった。すべて封鎖された。

涙が出てきた。


この気持ちはなんて言えばいいのだろう。

悔しさ? いいえ、恥ずかしさです。


「ちなみに死亡事故現場には凄惨なあなたの死体と、エロ画像が表示されたスマホが残されました。よかったですね。あなたのスマホは無事でしたよ」

「よくないよ! 恥だけが残ったよ!」


「あなたの親は、死亡を聞いた時に泣き、死因を聞いた時にも泣きました。愛されていますね」

「それ絶対に愛されてないよ! 呆れられて泣かれてるよ!」


「死後に言うことではないですが…。度を超えた飲酒や歩きスマホはやめましょう」

「…はい」


ショックだ。

ショックを受けることなんてないっておもっていただけにショック倍増だ。


「大丈夫ですか?」

「胸が、痛い…」

「霊体なので気のせいですね。気を強く持ってください」

「ふぐ・・・。あんた鬼だ」

「ええ、見ての通りの鬼です」

「ぐ…」


畜生すべて言い換えされる。

なんかもう死んだ後だし、この鬼への敬意というものがなくなった。


「あんた嫌いだわ」

「ふざけた転生者にやり返しただけですよ」


畜生。


「さて、ではあなたをわざわざこの場所にお呼びした目的を話しましょう。あなたには今からガチャを回してもらいます」

「え? なんだって?」

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