失われた光

 三条院はもはや見えなくなった目で、月の方向を眺めていた。

 天皇に在位していたときのことを思い出したのだ。

「帝、そろそろ退位を考えては如何かにゃ?」

と、藤原道長に追い立てられた日々。

 まだ見えていた月を見て、こう歌った。

「イヤイヤにゃがら、この世に生きながらえたにゃら、そのとき、今夜の月が恋しくおもうだろうにゃ」

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猫人小伝妙『百人一首』 今村広樹 @yono

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