絡繰女中
world is snow@低浮上の極み
冗談の通じない絡繰
冗談というのは、会話についてくるおまけのようでありながら意外と重要なものでございます。お堅い雰囲気で粛々と話した相手より、冗談を言い合って楽しく過ごした相手の方がまた会いたくなるのは、みなさんも身に覚えがあることでしょう。要は冗談はコミュニケーションの潤滑油。うまくなっておくに越したことはない、誠にありがたいスキルですな。
さて、冗談といえばこんなお噂が。
とある九月の昼四つ、修平という男が友人の創助を訪ねたところ、いつも元気な創助はすっかりしおれた様子で座っていた。
「なんや創助、ついに嫁さんにでも逃げられたんか」
「そうや、あの女、『あんたとおったら髪の毛全部禿げて尼さんになってまうわ』と言い捨てて出ていきおった・・・・・・ってアホ。おれに嫁さんなんてハナからおらんわ。言わすな」
「そんなこと言うたかて、お前がそんな顔色悪いの、ガキの頃に親父さんの作った
訊くと創助は「実は」と口に手を当てた。
「今朝はアイツのせいで、朝飯食い損ねて腹ペコなんや」
アイツと言って指差す先には、見目麗しい若いおなごがスンと座っている。
修平は目を見張った。
「創助、いつの間にあんな別嬪さん家に連れ込んだんや。どんな汚い手使ってん、言うてみい」
「えらい人聞きの悪い。あれは本物のおなごやない、おれが作った絡繰女中や」
「辛口醤油さん? 珍しい名前やな 」
「キラキラネームとちゃうねん。絡繰の女中さんや。独り身でおると、飯の準備やら掃除やら面倒なことがぎょうさんあるやろ。それを誰か代わりにやってくれへんかと思うて、あの絡繰女中、お栗を作ってん」
「ははぁ、お栗ちゃん。ようできた絡繰やな。まるでほんまもんの人間みたいやで。ということは、もし俺がお栗ちゃんに、昼飯になんか作ってくれって言うたら、勝手にやってくれるんか」
「そうや。お栗をこさえるときに、ちゃんと人間の言葉がわかるように工夫してあるからな。命令したらなんでも言うこと聞くはずやわ」
「じゃあなんでお前、朝飯食い損ねてんねん。お栗ちゃんに頼めばええやろ」
それを聞いた創助は深々とため息をついた。
「それが、ちょっと問題があってな。お栗には冗談が通じへん。言うたこと何もかも、真に受けてしまうんや」
「ほほう。いかにも絡繰らしい欠陥やないか。それで?」
「昨日の晩、なんかの拍子に冗談のつもりで『空を飛ぶことも、この創助にかかれば朝飯前や!』って言うてしもてん」
「そらあかんわ、お前。それ、冗談としてなんにも面白ないで」
「今は俺の冗談の上手い下手の話はしてへんわ。それでな、朝飯前や言うてもうたから、お栗、俺が空飛ぶまで朝飯作ってくれへんくなってしもてん」
「なるほど、それは大変やな。お前さん、空なんか飛べるんかいな」
「飛ばれへんから困ってんねや」
創助は心底困り顔である。
しかし話を聞いた修平はにっと笑い、パチンと指を弾いて
「なあ創助。お栗ちゃんをちょっとの間、俺に貸してくれへんか」
「ええけど、どうするつもりや?」
「お栗ちゃんが、冗談を理解できるようにする方法、思いついたんや!」
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