入学式の日にて 2
菜々美はここねの前を歩きながらなにを話せばいいのかと、必死に頭を回していた。
まずここは無難に出身中学の話をしようか。しかし、もしここねの通っていた中学が菜々美の知らない中学だった場合、返答に困って微妙な空気になること間違いなしだ。
知らなければ知らないなりに会話を続けることができるのだが、菜々美にはそれをできるコミュニケーション能力は無かった。
そんなこんなで無言で教室へと向かう二人。菜々美はちらりとここねの様子を窺う。ここねは初めて遊園地に来た子供みたいに、リュックの肩紐を両手で握りながら校内を見渡している。
どうやら気まずい思いはしていないらしい。菜々美は安堵の息を吐く。
そうして歩いていくと、とある教室の周りで人だかりができていた。クラスは一年三組。菜々美とここねの隣のクラスだ。
なにやらざわついている生徒達。なにかあったのだろうか?
人だかりが人を呼び、菜々美とここね以外の生徒も、なんだなんだと三組の中を覗き込む。
周りの声を聞くに、話題の超イケメン俳優でもいるのか、とでも言うようなざわつきだった。この学校は女子高だから男子生徒はいないけど。
「なんか、凄いわね」
「うん……有名な人が入学してきたのかな?」
菜々美とここねはそうやって言葉を交わしながら人混みの中へ入っていく。
菜々美はごった返す人の上から教室の中を覗き見る。百六十センチメートルという女子の平均よりやや高めの身長が少しだけ役に立った。背伸びしているからふくらはぎをつりそうだけど。
上から覗き見る菜々美に対して、ここねは小柄な身体を活かして、するすると人の間を縫って教室内を見に行く。
「「わ……綺麗……」」
菜々美とここねは、目の前に広がる景色に思わず声を漏らしたが、その声は周囲の喧騒に溶け込んだ。
二人の目に現れたのは、自然の生み出す神秘のような女子生徒。
艶のあるまっすぐな黒のロングヘアーを携え、シミひとつない、日焼け知らずの肌。一見冷たく見えるその目は、相手を突き放すよりも吸い込んでしまう程の綺麗さを誇る。
その女子生徒はさっきから三組のクラスメイトだろうか? 三人の生徒に囲まれている。
会話の内容は聞こえないが、会話している姿を見ると、否が応でも彼女が自分達と同じ人間なのだと思い知らされてしまう。
いつでも見ていたい絶景だったが、ここは学校だ。そして今日は入学式。時間は限られている。
「そろそろクラスに戻ってくださーい!」
廊下の端の方からそんな声が届く。もうすぐ始業の時間が来るらしい。
名残惜しいと思いながら、人混みから抜け出した菜々美とここね。二人は少し離れた場所で顔を見合わせる。
「あの子すっごく綺麗だったわね!」
「うん! わたしあんなに綺麗な人初めて見たよ!」
興奮冷めやらぬ二人は言葉を交わし合う。
「あんな綺麗な人が同じ学校にいるなんて、創作の中だけだと思っていたわ!」
「女子校の王子様――みたいな?」
「そうそれよ! そして文武両道の完璧超人に違いないわ!」
あの生徒の美しさは、嫉妬という感情を抱くことすらバカバカしくなる美しさだ。
菜々美とここねだけでなく、他の生徒もあの超絶美人な生徒のことを話してある。
その生徒――
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