第15話

裕司は屋敷の応接間で弁護士の広末と会計士の金松と顔を合わせた。広末は女性で、金松は年嵩の男性だ。広末は父親が、金松は本人が裕司の父親と同じ大学の同期で友人同士らしい。広末は会計士の資格も持ち、金松の元で勉強中だそうだ。

先代の父親からの遺産や金銭状況を確認する。裕司が相続したものの中には不動産があり、それを管理している会社もグループ会社だそうだ。本業は製薬会社である森之宮製薬だが、先代は手広く様々な事業を行っていたらしい。資産状況は、今後華と子供を養っていくには十分だろう。資料を眺めている裕司に金松は声をかけてきた。

「ぼっちゃん、大きくなりましたなぁ。今日は突然どうしたんです?当主代行の姿もないようですが」

「俺がここにいたオメガを妊娠させて発狂して出て行った。次期当主として諸々把握しておきたい」

広末がピクリと体を揺らした。金松は少し間をおいて答える。

「それは…そうでしたか。オメガの妻、は、先代の意志でもありましたな。次期当主はご兄弟だったはずでは?」

「あいつはベータだ。この家にアルファの男は俺だけだ」

金松は息を呑んだ。父の学友であれば両親がアルファ同士だったことも知っているだろう。アルファ同士の夫婦からベータが産まれるとは思ってもみなかったはずだ。

裕司は資料を確認しながら疑問が湧いた。この場の前に調べられる部分は調べておいたが、やはり同じところでひっかかった。製薬会社の業績だ。

「森之宮製薬の業績は」

「お相手は同意されてますか?」

裕司の言葉を遮り、今まで黙っていた広末が口を開いた。広末は笑顔を浮かべて裕司を見ているが、その瞳は暗い。

「あなた方兄弟と同じ年の、オメガ夫婦のお子さんが囲われていると伺っています。その方がお相手ですか?お相手がきちんと同意した上で番にしましたか?きちんと手順を踏んで、妊娠にいたったのですか?」

「同意は得てないし番にもなってない。妊娠したのは避妊しなかったからだ。ヒートを起こして孕ませた」

広末の笑顔が消えた。今まで感情が読めなかった広末から、怒りを感じる。

「無理矢理妊娠させて、跡取りができたそばから当主気取りで金銭の確認ですか。同意を得ていない相手を妊娠させることは犯罪です。いやしい貴方の子供を妊娠するとは…心底同情します」 

「広末君、よしなさい」

「可哀想に。その子供にもあなたのようないやしい人間の血が…」

裕司はテーブルを叩きつけた。裕司の射殺すような視線を広末は無表情に受け止めている。

「父親は俺でも、母親はあいつだ。子供を侮辱するな。あいつと子供を守るために当主の権限を使ってるだけだ、使えるもんを使って何が悪い」

広末は目を見開いた。想定外の答えだったようだ。

「………お相手もお子さんも、それだけ大切だ、と」

「じゃなきゃここまで必死になるかよ」

裕司は舌を打って手元の資料を握り潰した。自分はともかく、子供を貶めるような発言は見過ごせなかった。

「罰でもなんでも受ける。その前に、あいつと子供の生活を保証してやりたい。そのためにあんた達を呼んだんだ」

成り行きを見守っていた金松が口を開く。

「すまない、裕司君。口が過ぎた。彼女の非礼を許してくれ」

金松は頭をさげている。余裕のない裕司はつい怒りを爆発させてしまった。裕司は眉間を抑えて深いため息をつく。

「いい。それより森之宮製薬の業績について教えてくれ」

金松は広末に視線を送る。広末は自分を取り戻して答えた。

「業、績は…ゆっくりと、下降傾向ですね。今のままでは会社の存続は難しいでしょう。原因は主力が既存の薬品のみで新薬の開発に他社から遅れを取っていることかと思います」

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