第2話


授業と授業の合間の休憩時間。裕司は教室で、数日前の華の青白い顔を思い出す。肩に触れたら振り払われた。

あの時来てほしかった相手はきっと自分じゃない。

わかりきっていたはずなのに、胸の奥がじくじくと痛む。抱き上げた時の懐かしい匂いが鼻の奥に残っている。子供の頃から変わらない、少し甘い華の匂い。

『ぼくがおめがになったら、けんちゃんのツガイにしてくれる?』

健司が笑って華の頭を撫でたのを、昨日のことのように思い出す。最近は華から遠ざかっていた。華だけではなく健司からも。

早くあの家から出たい。家との関係を断ちたい。このままあの二人が結ばれる姿を見るのは、辛い。裕司は頭を振って考えを打ち消す。

「森之宮、カウンセリングルームに行きなさい。先生がお呼びだ。保健室の隣だぞ」

担任に呼ばれて、席を立つ。なにか呼び出されるようなことをしただろうか。最近は色々と大人しくしていたはずだ。カウンセリングルームに入ると、養護教諭がそこにいた。

「真理子じゃん。どーしたん?」

「中村先生、ね。血液検査の結果が出たのよ。名前と生年月日、間違いないわね?」

検査結果の紙が差し出される。間違いなく自分のものだ。名前から下は別の用紙で隠されている。本人が期待していた性とは違う場合がある。そのため結果がすぐ目に入らないようにしているのだろう。また、意に反した性だった場合のため、カウンセリングもできる真理子が対応しているようだ。

「ここには第2性の検査結果が書かれています。開いて、説明して良いかしら」

「アルファなんだろ?もったいぶらなくていいよ」

中村苦笑してが用紙を開く。第2性の欄に、アルファと記載されていた。

(でしょうね)

自分と健司はアルファだ。そんなことは、こんな結果を見なくてもわかる。

「そうね。森之宮家の血筋だものね。お母様もそうおっしゃってたわ、当然です、って。嬉しそうだったわよ」

検査結果はまず親に報告がされるらしい。確かに、内容によっては本人に告知しないほうが良い場合もあるだろう。

裕司は真理子の嘘を鼻で笑った。

「嘘つかなくていいって。あの人俺に興味ないから」

「そうかしら?私にはそう聞こえたけどね。それから、アルファとわかった人にはこれを渡しているの。なにかわかる?」

中村はシートに入った錠剤を差し出してきた。

「何?これ」

「アフターピルよ。性行為のあとに相手に飲ませることで妊娠を防ぐことができるの。アルファは妊娠させる力が強い性だけど、特に発情期中のオメガに対しては一度の行為でほぼ妊娠させてしまえる。万が一ヒートを起こしたオメガと性行為に至ってしまった場合、これを相手に飲んでもらってちょうだい」

裕司は気分が悪くなった。見境なく盛っても、薬でなかったことにできる。ヒートを起こすなど獣のようだ。アルファの自分はそれに逆らえないらしい。

「さすが名門校。避妊にまで配慮してくれるなんてお優しいねぇ」

ここは良家のご子息ご息女が多く通っている。下手にオメガを妊娠させては、跡取りや相続に問題がでてくる。そのためのアフターピルなのだろう。くだらない、と裕司は思った。こんなものに頼らなくてもヒートは抑え込めるはずだ。アルファは、自分達は動物ではく人間だ。理性で抑え込めなくてどうするのか。

「なぁ。確定すんの早くね?」

「そんなことないわよ?早い子は17歳でヒートが来たりするから。平均的に18歳でヒートが起きるから、17歳から定期的に検査をするのよ。まぁ、言うなればアルファとオメガのための検査ね。ベータの子は確定するまで毎月血を抜かれるんだから。難儀よねぇ」

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