第47話 忍び、修行する

 学院の結界は幾つかの機能がある。


 対衝撃機能。


 対魔法防御機能。


 対不浄防御機能。


 外からの攻撃に加え、内側にも作用する機能が存在する。


 浄化機能。


 異物感知・排除機能。


 特定の条件下で発動する、魔法無効機能と殺傷性攻勢機能。


 上記以外にも学院の結界にはあらゆる機能が備わっており、それは王都全体も同じだった。王城はきっともっと高機能の結界が張られている事だろう。


 数日中に結界を解析し、結界内で自由に動く事が出来るようになると踏んでいた。が、結果は十日もかかってしまった。


 解析し、結界の効果を自身の身体に馴染ませた。自身ルーナを結界の一部であると結界に誤認させるのに、かなりの時間を要してしまった。


 その間、ミファエルと不用意に接触が出来ず、必要最低限の護りになってしまった。勿論、ミファエルの身に何かあれば即座に対応は出来た。


 だが、自由とは程遠い状態だった。理由は分かっている。ルーナの身体が以前よりも弱い・・からだ。


 バンシーを殺し、ロックの龍の鱗を思わせる身体を破壊し、百鬼夜行を全滅せしめ、その妖刀使いを打ち倒した。だが、本来の強さには程遠い。


 本来のルーナであれば、龍の鱗を断ち切る程の剣筋を持ち、妖刀すらも一刀両断せしめる技があった。


 若い身体だからというのも理由の一つだろうけれど、問題は動きを身体が憶えていない事だ。


 知識は在る。経験も在る。が、それは全て魂に刻み込まれたものだ。身体はその経験を憶えていない。


 だからこそ、技は拙くなり、身体は自身の思い描く通りに動いてはくれない。


 それはそうだ。この身体は幾つもの死線を潜り抜け、屍山血河しざんけつがを生き抜いた訳では無いのだ。


 知識と経験に身体が追いつかない。


 それに気付いたのがつい最近だった。いや、思い至ったというべきだろう。


 最初は子供だからかと思ったけれど、戦いを重ねるごとに思考と動きは一致していくように思えた。


 筋肉量の違い、身体の癖、色々と考えた結果、自分と身体の経験と知識の違いという事に気が付いた。


 何分、転生をしたのなんて初めての事だ。思い当たるのに時間を要したけれど、分かってしまえば問題は無い。


 修行をし直せば良いのだ。


二重に歩く者ドッペルゲンガー


 シーザーが寝静まった頃、ルーナはドッペルゲンガーに声をかけた。


 いつの間にか部屋の中に居たルーナに、しかしてドッペルゲンガーは驚いた様子も無い。


「はいはい、なんですか?」


 ドッペルゲンガーが軽く返すも、ルーナは気にした様子も無く返す。


「少し出る。保険は用意したが、もしもの時はお前も対応しろ」


「了解です。と言っても、僕は出番無いでしょうけど」


「だからこそもしも・・・だ。上手く運べば主との関係を周りに良いように・・・・・周知出来る。何かあれば、上手く利用しろ」


「上手く、ねぇ……それを言うならあんたからちゃんと説明してくれれば、僕が苦労する事は無かったんですけど?」


 ミファエルはドッペルゲンガーをルーナとして認識していた。その誤解を解くのに十日もかかるとは思っていなかった。それは、ルーナも同じだった。


「何度も説明した。だが、納得はしなかった。目の方で確認できれば良かったのだが、完全に使いこなせてはいないようだ」


「だから今日、急に物分かりが良くなったのか……」


「そちらの方は気にするな。終わった事だ。二人とは話を詰めておく」


「了解です。本当、頼みますよ」


「ああ」


 要件が済めば、ルーナは即座に姿を消す。音も無く、空気の揺らぎも無く、瞬きの間に姿を消すルーナに、ドッペルゲンガーが呆れたように言葉を漏らした。


「相変わらず反則的だなぁ……」


 ルーナの神出鬼没のをドッペルゲンガーは知っている。だが、知っているからこそ反則的だと思う。


 ルーナは影に潜って・・・・・移動をする。地中では無く影の中なのだ。


 影の中を移動するなど誰にでも出来る事ではない。ましてや、この世界にそんな魔法は存在しない・・・・・


 存在しない技術を駆使できる時点で反則以外のなんでもない。


「化け物が主か……はぁ、やっぱり僕は主に恵まれないな」





 影に潜って、一般寮の外に出た後、影から出るルーナ。


 ルーナが影移動と呼んでいるこの忍術には制限がある。


 まず、影と影が繋がっていないと通る事が出来ない。つまり、何も無い平野では自身の影しかないので影移動が出来ない。潜る事は出来るけれど出口が無いからだ。


 次に、速度がいちじるしく落ちる。逃げる時には不向きだ。それでも、ルーナであれば大概の者からは逃げ切れるけれど。


 次に、魔力の消費が案外多い。


 ルーナが影移動を出来るようになったのは、一度影の国・・・に行った事があるからだ。


 影の国でも様々な経験をしたけれど、今は割愛をする。要は、影の国への行き方を知っているから、影へ自由に入る事が出来るのだ。


 影は影の国への扉であり、資格があれば誰でも入る事が出来るのだけれど、いかんせん氣の消費が激しい。一般人では招かれでもしない限り、まず影の国にはいけない。


 ルーナの影移動は、半分影の国に入っている状態。つまり、扉を開けっ放しにしている状態だ。


 扉を開けるのに一瞬でも多大な氣を消費するのに、ずっと開けっ放しにしているので更に氣を消費しているのだ。


 ルーナでなければ気軽に使う事が出来ない忍術になる。


 最初に影移動をした時に、この世界にも影の国があるのかと思ったけれど、『日がある限り影が在る。世界に日があるのであれば、影の世界は必ず在る。此処は、そういうところなのだよ』という影の国の王の言葉を思い出した。


 つまり、言葉通りであればルーナはどの世界へ行っても影移動が出来るという事である。


 閑話休題それはともかく


 今は、少しでも戦闘力を上げる必要がある。


 ルーナは影の国に潜る。影の国であれば自由に暴れても誰も気に留めない。


 派手にするつもりは無いが、邪魔が入らずに修行が出来る影の国は修行の場にはうってつけなのだ。


 だからといって、完全に安全な場所では無いのだけれど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る