第39話 忍び、入学……する? 7
魔法の試験が終わり、残されたのは体術の試験。
兵士と言えば白兵戦。剣を持ち、戦う事が兵士の使命でもある。
「お、おい見ろよ! あれ、総兵団長のアステル・クリント様だぞ!」
「ほ、本当だ! 凄ぇ! 本物だ!!」
パーファシール王国の数ある兵団を束ね、王国最強の騎士団と名高い統括騎士団と匹敵する程の戦力を有しているとされる兵団を指揮する、王国で最強の一角と言っても差支えの無い男。
総兵団長アステル・クリント。
身の丈は二メートルを超え、その身体つきは筋骨隆々。得物である自身の背丈に迫る大剣を振るう姿はまるでドラゴンの如し。
一目見ただけで分かる。別格であると。
心が躍る。が、直ぐに抑える。
自分は戦いに来たのではない。入学するために来ただけだ。
「今回、お前達の相手をさせてもらう、アステル・クリントだ。俺が相手だが、まぁ、気楽に行こうや」
自分達の相手をしてくれるのがアステルだと分かると、更に子供達は色めき立つ。
それはそうだろう。総兵団長と手合わせ出来る機会など滅多に無い。心躍らないという方が無理な話だ。
「とはいえ、面倒だが俺も多忙でなぁ。それに伴って、実戦形式での試験に変更だ。俺の都合で悪ぃとは思うけどな。ま、しかたねぇって諦めてくれや。つーことで、五人ずつ、五分間だけ相手してやる。俺は木剣だけ。お前らはなんでもありだ。さ、チームを組めよ、がきんちょ共」
ぱんぱんっと手を叩いて行動を促すアステル。
子供達は、突然チームを組めと言われて慌てふためく。
「アルカ、僕と組――」
「は、はい! 勿論そのつもりです!」
「……返事が早くて何よりだよ」
食い気味に答えるアルカに、思わず苦笑をするドッペルゲンガー。
しかし、作るのは五人組だ。早急に後の三人を見付けなければいけない。
「おう、お前さんら二人か?」
そんな時、二人に声がかけられる。
声の方を見やれば、子供にしては背の高い少年が二人を見ていた。
「ああ、僕達は二人だけど」
「そいつは良かった。じゃあ、俺達と組まねぇか? こっちは三人、そっちは二人。丁度五人だ」
ドッペルゲンガーとしては誰と組んでも問題は無い。
「アルカは大丈夫?」
「はい、大丈夫です!」
「じゃあ、決まりだな」
にっと背の高い少年が笑う。
「よろしく、二人とも! 俺はシーザー! よろしくな!」
「よろしくシーザー。僕はツキカゲ」
「わ、私はアルカです! よろしくお願いします!」
「おう!」
「それで、残りの二人は? 見たところ君一人しかいないけど……」
「「ふっふっふー! 呼ばれちゃ仕方ぁねぇや!」」
ドッペルゲンガーが問えば、ようやくシーザーの背後から声が聞こえてくる。
アルカはびっくりしている様子だけれど、ドッペルゲンガーはずっとシーザーの背後に二人立っている事に気付いていた。気配もそうだけれど、影を見れば一目瞭然である。それに、時折くすくすと笑い声が漏れていた。
シーザーの背後から同じ顔の少女が二人、右と左で一人ずつ出て来た。
「わわっ!? いつからそこに!?」
驚いた様子を見せるアルカを見て、少女達はにししっと嬉しそうに笑う。
「いつからそこに居たのかだってぇ? お答えしやしょうお嬢さん!」
「ウチらは最初からそこに在り、また何処にでも在るのさ!」
「……つ、つまり?」
「「最初からシーザーの後ろに居たよー。ねー」」
「そ、そうだったんですね! 全然気付きませんでした!」
「まぁ、うちらの隠密はもう極まってるから?」
「達人と言っても過言ではない」
と、隠密が得意ちゅうの得意であるドッペルゲンガーの前で語る少女二人。
「お前等、ツキカゲには通じて無かったみたいだぞ?」
「え、そうなんですか?」
「なんとぉっ!?」
「まさかウチらを上回るプロが此処に!?」
独特なのりを見せる二人に苦笑を浮かべながら、ドッペルゲンガーは人差し指で二人の影を指差す。
「シーザー以外の影があれば、流石に分かるって」
「「ななな、なんとぉっ!? これは盲点!!」」
大袈裟に驚いて見せる二人と――
「さ、流石です! 私、全然気付きませんでした!」
純粋にドッペルゲンガーの観察眼を賞賛するアルカ。
どうにも、やりにくい。
「ところで、自己紹介して貰っても良いかな?」
「うちが姉のポルル!」
「ウチが妹のペルル!」
「「仲良しな双子さ!!」
いえーいとピースサインをしてくるポルルとペルル。
「聞こえてたと思うけど、僕はツキカゲ」
「私はアルカです。ポルルさん、ペルルさん、よろしくお願いします」
「「よろしくー!!」」
完全にシーザーの背後から出て来たポルルとペルルは、アルカの両手を握ってそれぞれがぶんぶんと振り回す乱暴な握手をする。
「っし、じゃあ本番前にそれぞれの役割分担決めとこうぜ」
「そうだね。シーザーから、得意分野を言ってこうか」
「おう。俺は雷系魔法と槍術が得意だ」
「僕は剣が得意かな。魔法は全属性それなりにって感じの器用貧乏」
「私は回復魔法が得意です。あと、補助系の魔法も得意です」
「うちは遠距離系! 魔法、弓、投擲、どれも一級品!」
「ウチは近距離系! 魔法、剣、
「おぉ、割とバランス良いな。じゃ、俺、ツキカゲ、ペルルが近距離で応戦。アルカが補助魔法で前衛の補助。ポルルは隙を見て遠距離から攻撃」
「本気で
「本気で殴っても?」
「総兵団長様だ。構いやしねぇだろ」
シーザーがそう言えば、双子はいひひひひっと悪い笑みを浮かべる。
「っと、俺が決めちまったけど、これで良いか?」
「良い采配だと思うよ。現状、シーザーの案が最善だと思うし」
「私もそう思います!」
「「暴れられるから異議なーし!!」」
「んじゃ、これで決まりだな」
ともあれ、これで方針は決まった。
即席だけれど、均整の取れたパーティーだとドッペルゲンガーは思う。
ドッペルゲンガー達が方針を決めた頃合いで、他のところもちらほらとパーティーを組んでいる様子だ。早い所では、すでにアステルと戦闘を始めている。
が、流石は総兵団長。片手、加えてその場から一歩も動いていないのにも関わらず、全ての攻撃をいなしている。
アステルは防御に徹するらしく、その戦闘を他の試験官が見定めている様子。
兵士は一人よりも大勢で戦う場面の方が多い。そのため、即席のパーティーでもどれだけ戦えるかを見ているのだろう。後は、個々の実力も見定めているはずだ。
「かぁーっ、すげぇな総兵団長様! 流石は王国最強の一角だぜ」
「はい。いつもと違う武器を使っているのに、まるで自分の手足みたいに使ってます……」
感嘆の声を漏らすアルカ。
アステルは訓練用の木剣を使っている。それは、いつも自分が使っている大剣とは重さも強度も違うけれど、まるで長年愛用してきたかのように振るっている。
「うぉー! 最っ高じゃーっ!」
「うぉー! 早く戦いてぇーっ!」
アステルの戦いを見て興奮を隠せない双子。
「って言ってるけど、どうする? 良い結果出すなら、総兵団長様が疲れてきたときにするべきだと思うけど?」
「つっても息一つ乱してねぇぜ、ありゃあ。ま、動きを観察するって点じゃ、後半で戦うっていうのは賛成だけどなぁ……」
その割に、煮え切らない様子のシーザー。
「早めに戦いたい?」
「そりゃそうだろ。初見で総兵団長様相手に何処まで戦えるか試してみてぇよ、俺は」
にっと獰猛に笑って見せるシーザー。
「って、シーザーは言ってるけど、どうする?」
ドッペルゲンガーは他の三人に確認を取る。
「「激しく同意!!」」
「わ、私は、皆さんと同じで良いです」
「だって。良かったね、シーザー」
「おう! んじゃあ次行こう……って、先越されちまった」
残念そうなシーザーの視線の先。そこには、既に準備を終えているパーティーが一つだけあった。
黒髪黒目の少年、シオンのパーティーである。
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