勇者テラの魔王討伐の旅、継続中

燐音

序幕 勇者テラ、誕生!

#1 むくわいねもるげんむさくわぁ~

 その昔……とはいっても20年くらい前の話なんですが。「ゼタ・ピカタ」という青年が聖剣「アークライト」を抜いた事で、魔王を倒す使命を課され、旅に出て、なんやかんやで魔王を封印し、魔王の膨大な魔力を地に埋めて聖剣を突き刺して、その魔力を管理する為に村を興したそうです。

 そうです……。


「そん村が、ってわけじゃな」

「はぁ」


 と、父さん――元勇者現村長の「ゼタ・ピカタ」から365日毎晩聞かされた話を、今日も夕食時に聞かされて、超うんざりしているのが、僕「テラ・ピカタ」です。ちなみに父子家庭。母は不倫してどっか行っちゃいました。さて、今日の夕食は森で捕ってきたシシ肉の鍋で、近所のおばちゃんがくれた野菜をたっぷり煮込んだ奴で、めっちゃおいしいんですよね。自分で言うのもなんだけど。さて、


「ほんでなぁ、父さん魔王にトドメを刺したんよ。こう、ブシャーッ! ってのう」

「はぁ」

「んでってって――」

「父さん、その語彙力が下がる会話はやめましょうよ。もうその話、毎日毎日聞かされていい加減うんざりです」


 僕がため息交じりにそう言うと、父さんは口をとがらせた。


「何言うん! おめえはっちゅー、親ガチャSSRの幸福な人生を手ん入れた、やぞ!?」

「いや、アホですか、バカですか。いつまでなんですか。そんなんだから不倫されるんですよ」

「親に向こうてなんやその口の利き方は! 父さん悲しいぞ!」

「――ごちそうさまー」


 大変不快なので、父さんの話を遮り、僕は食卓を離れる事にしました。


「全く、今ん父さんがいなくのうて、泣く羽目になるぞぅ……」

「まあ父さんがいなくなったら大変ですから。どうぞいなくならないでください。葬式とか、遺産相続とか税金とか、諸々の手続きがすごく大変だし、父さん保険も入ってないし」

「地味にひでえな。あとやめーな、税金ん話とか今されとうないわ」

「でも税金滞納してますよね?」

「やめてよ~! 今月の支払いどうしようか悩んでるとこなんだよ~!」

「お酒と葉巻やめればだいぶ節約できる……というか、節制してくださいよ。子供にばかり負担や負債を押し付けないでください、この!」

「親に向かって」

「――「なんだその口の利き方は!」って、今時流行んないですよ。おやすみなさーい」


 そんなこんなで僕は自分の部屋に戻る事にし、父さんに背中を見せると、父さんは僕に「おやすみ~」と声をかけてきた。なので、僕も返事をしてから自分の部屋に戻ってくると、速攻で布団にもぐりました。

 ……あ、そういや。


「お風呂、入ってなかった……まあいっか、明日入れば」


 お風呂なんて、3日入らないところで全然平気だし……。布団の中でそんな事を考えながら蝋燭の火を消して、目を閉じて、眠りにつきます。そのまま、暗闇に吸い込まれていきました。


 ――と、ふと目の前に光り輝く何かがぼうっと現れ、僕に話しかけてきます。なんでしょう? 僕に光の知り合いは無いと思うんですが。


『テラ……テラ・ピカタ……』

「はい、テラ・ピカタです」


 僕がそう返事すると、相手は大変戸惑っているようでした。


『い、いや。知ってますよ。それよりも――』

「誰ですか、僕の固有領域パーソナルスペースに不法侵入ですか?」

『違います! じゃなくて……』

「用件をどうぞ、ピー」

『他人を馬鹿にするのもいい加減にしなさいよッ!』


 と、光にピシャリと言われたので、僕は黙ります。いえ、そろそろからかうのもやめましょうか。すると、光は咳ばらいをしました。


『えへん、私は「」』

「「」?」

。……あなたに運命を告げに参りました』

「まさか、テニスギャルがうじゃうじゃ集まって、闇鍋パーティでもするんじゃないでしょうね?」

『……実は、魔王が復活しつつあります』

「エ゛ェー!? 本当かい!?」

『真面目に聞け!』

「……はい」


 流石に怒られちゃいました。


『おほん。で、魔王が復活しつつあるって事は、この村に封印されていた魔力がもうほとんどなくって、聖剣が抜けるようになります。しかし、聖剣は勇者しか抜けないようになってます』

「はあ便利なシステムですね。じゃあ、元勇者の父さんが抜くんですね。ぶっつりと、ぶっつりと」

『いえ、聖剣を抜くのはあなたです』

「……御冗談を」

『いえ、ガチです』

「ガチってなんですか」

『で、聖剣が抜けた瞬間に魔王が復活します』

「なんでです?」

『聖剣が魔力を封じている為です』

「すごいシステムですね」

『あと、もうこの際ですからはっきり言いますが、あなたのお父上もその日に死にます』

「……え、マジですか?」

『マジです。なので生命保険に入るなら今のうちですよ』

「うーわ、外道ですかあなた」

『いえ、私は運命を告げに来ただけで、赤の他人に流す涙とか情はないんで』

「さいですか。まあ、保険の事は考えておきます」

『あ、一つ言っておかねばならない事があります』

「なんですか?」


 お漬物はもったいぶるように咳ばらいをします。


『テラ・ピカタよ、さあ、戦うのです!』

「……はあ」


 満足したのか、とても満足げな声でなんか笑ってます。キモいですね……。


『キモいとか思わないように、失礼ですよ。……では私はこれで。ちなみにこの光はこのメッセージが終わった瞬間、爆発――』


 と、お告げ者の光が強くなりました。まさかホントに爆発して……!?


『…………しない』


 ――その瞬間、視界に僕の家の天井が映り込みました。外の光が部屋に入り込み、小鳥の声がかすかに耳に入ります。これが朝チュン……。


「……知ってる天井」


 僕はそうつぶやき、そういや変な夢を見たような気がして、思い出そうと頭を働かせます。ぼんやりとした頭で思い浮かんだのは……光が僕に何か言ってた気がするような夢。を見たような。

 何にせよですか、良かった。まあ、今のうちに生命保険に入って……いや、やめておきますか。それよりお腹減ったなぁ。僕はいつものように居間に行きました。

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