第10話 正体

「翔太…?」


間違いない、そこにいたのは俺の親友である翔太だった。翔太がmizuhoさん?いや、そんなわけないだろう。翔太もこの公園に遊びに来てた、とか、そんなところだろう。


「えっと…すごい偶然だね。翔太もこの公園に来てたんだ」


「違うよ」


翔太はハッキリと否定した。


「じゃあ、なんで?」


「君と待ち合わせしてたからだよ。」


「え……じゃあ、もしかして」


「うん、僕がイラストレーターのmizuhoです」


いや、待て待て待て待て。翔太がmizuhoさん?翔太があの人気イラストレーターのmizuhoさんだというのか?理解が追いつかない。今まで俺の曲のイラストを描いていたのは翔太だったのか?


「いや、嘘…でしょ…?」


翔太は再び間髪を入れずに否定した。


「ほんとだよ、俺がイラストレーターのmizuho本人」


「いや、だってそんなこと一言も…」


「うん、今まで黙っててごめん。」


「何で言ってくれなかったんだよ」


「ごめん。でも雄大もボカロPであることを俺や周りには隠してたでしょ?俺もイラストレーターであることは隠したかったんだ」


俺は何も言い返すことが出来なかった。

俺が黙っていると、翔太が言った。


「とりあえず、立ち話もアレだし喫茶店でも入って話さない?」


俺は翔太の提案に従い、近くの喫茶店に入った。



ーーーーーーーーー



「えーっと、とりあえず翔太はいつから俺がボカロPだって気づいたの?」


「LINE交換した時だよ、お前普段のやつと同じアカウント使ってるじゃん」


「あ、、、」


そりゃバレるわな、翔太を友達登録してる普段のアカウントで交換したら。


「気づいた時はマジでビビったよ。え、雄大がボカロP?

それも俺がMVを描いてるあのボカロP?って。」


「なんか…恥ずかしいな…。でも俺がボカロPなのを知ってたなら依頼料まけてくれても良かったじゃん笑」


「こっちもきちんと仕事としてやってるからな。依頼料は正式に頂かなきゃ」


「てか、翔太は何でmizuhoなんて名前でイラストレーターやってるの?ネカマなの?」


「いいだろ、別に。俺は可愛いものが好きなんだ」


あぁ、これがギャップ萌えというやつですか。あのサッカー部の翔太の口から「可愛いものが好き」なんて言葉が出るとは。


俺がニヤニヤしてると、翔太が真剣な顔をして言った。


「そんなことよりさ、、、」


「お、おう」


「お前、本気でボカロP辞めるつもりなの?」


「うん。もう辞めるつもりだよ」


俺はミコが消えてから魂が抜けたかのようにボカロに対する熱が冷めてしまった。そのため、仕方なく下した決断だ。


「理由だけ、聞かせてもらってもいい?」


「単純だよ、モチベが無くなったから」


「何でモチベが無くなったの?」



どこまで言うべきなのだろうか。ミコのことをきちんと話した方がいいのだろうか。いや、でも信じてもらえるわけがない。VOCALOIDが実体と自我を持ったなんて話、突拍子も無さすぎる。


俺が1人で思考を巡らさせていると、翔太が優しく声を掛けた。


「どうしても言いたくないなら無理に言わなくてもいいよ。でもさ…俺、お前の作る曲がめっちゃ好きだったんだ。毎回、MVのイラスト依頼が来るのを楽しみにしてたんだ。俺はお前の曲をこれからも聞きたい。だから、何でも話してくれ。俺に出来ることなら何でもするよ」


俺は泣きそうになった。まさか翔太が、いや、mizuhoさんが俺の曲をそんな風に思っていてくれたなんて。



全部言おう、今までイラストを描いてくれたmizuhoさんに対して説明する義務がある。



俺はミコと出会ってからの話を全て伝えることにした。

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