第8話 対抗心
「どうしたの、元気なさげじゃん?」
いつも通り友達の翔太と待ち合わせをして登校していると、唐突に翔太が言った。
俺、そんなに分かりやすいタイプでは無いと思うんだけどな…
俺はミコと遊園地に行って以降も、なかなか良い歌詞が思いつかず悩んでいた。
「何か悩みとかあるなら聞くよ」
「いや…………………別に何も」
「絶対何かあるだろ、その間は」
翔太の好意を無駄にするのは気が引けるが、俺がボカロPである事は最重要機密事項なので打ち明ける訳にはいかない。
「ホントに何もないよ!!」
「まぁ…それならいいけど」
翔太は渋々納得してくれたみたいだ。
「ってかさ、お前」
「何?」
「部活にも入ってないし、学校終わってから何してんの?」
突然鋭い質問が来た。だが、こういう時のために嘘は考えてある。
「ゲームだよ、ひたすらゲーム」
「何のゲーム?」
「スマブラ」
「そっか」
実際はやったことすら無いのだが、こういう時はスマブラと言っとけば大概の人は納得するのである。
「まぁゲームはほどほどにな笑」
「おうよ、お前は部活頑張れよ」
翔太はサッカー部に入っている。名前もサッカー部っぽいし。
翔太と仲良くなったのは高校入学直後だ。同じクラスの前後の席で、まぁ必然的に仲良くなったって感じだ。特に趣味が共通してるというわけでもない。俺はアニメやボカロが好きだが、翔太はサッカーとかHIPHOPとかが好きらしい。まぁ俺がアニメやボカロが好きな事は隠してるんだけど。
学校が終わり、俺は家に直行する。どこにも寄らずに直行する。なんたってミコが待ってるからな。
家に帰り、自分の部屋へ入った。そこで、俺は腰を抜かしそうになった。そこには、巫女の格好をしたミコがいた。
「ど、どうしたんだ?」
「どう?似合う?」
「コスプレか?」
「似合うかどうか聞いてるの!YESかNOで答えて!!」
「……YES」
「やった!!」
そう言うと巫女のミコは嬉しそうに体をくねくねさせた。かわいい。
「何で突然そんな格好しだしたんだ?」
「これ見て」
そう言うと、巫女ミコは一枚の写真を見せてきた。そこには、ネギを持って心の底から幸せそうにしている某電子の歌姫が写っていた。
「そっちがネギキャラで売り出すなら、私は巫女キャラで売る!」
どうやら無駄に競争心を燃やしてしまったらしい。しかも野菜に対してコスプレで対抗する、というのはちょっと卑怯じゃないか?
「わたしも人気VOCALOIDになりたい!」
やっぱりミコも人気になりたい、と言う気持ちはあるらしい。
「みんなみこみこにしてあげる♪」
「あの…そんな張り合わなくてもいいと思うよ」
「いや…でも…
「俺は普段のミコでも十分可愛いと思うよ」
「えっ、あ、ありがと…」
ミコは顔を赤くしてボソッと言った。そんな照れなくてもいいのに。続けてミコは言った。
「マスターも十分かっこいいよ…」
俺は尊死した。
その日、俺はニコニコ動画とYouTubeに「みんなみこみこにしてあげる♪」という曲をアップした。
炎上したのは言うまでも無い。
ーー数日後ーー
「ただいま」
俺は学校から帰宅し、いつも通り自室へ直行する。すぐにパソコンを立ち上げ音楽編集ソフトを立ち上げる。
「ミコ、ちょっとだけ歌ってくれないか?」
「わかった!!どこ歌えばいい?」
ミコが自我を持って以来、ボカロエディターに歌詞を打ち込む手間が省けた。かなり便利だ。
「この部分を歌って欲しい、若干ビブラートかけながらでお願い」
「りょうかい!」
ミコの歌声はとても綺麗だ。何でもっと人気が出ないのか分からない。
「こんな感じでいい?」
「ありがと、完璧だったよ」
ミコは一瞬満足そうな顔をしたが、すぐに難しそうな顔をして言った。
「マスター」
「どうした?」
「マスターはさ、他のVOCALOIDを使ったりしないの?」
突然どうしたんだろう、何か不安にさせるようなことでもしたか?身に覚えがない。
「どうしたんだ、突然?俺はミコ以外を使う気は無いよ」
俺が断言すると、ミコは優しく笑って言った。
「そっか、、、ありがと」
何だか今日のミコはおかしい、変に大人びているような気がする。
「何か今日のミコおかしいぞ?どうかしたのか?」
ミコは少し考えるような顔をした後、すぐに笑顔に戻り言った。
「何でもないよ!それより曲の続き作ろう!」
「おう、そうだな」
俺の杞憂だったのだろうか。まぁ、ミコ本人が何でもないと言っているんだし、俺は曲作りに集中するか!
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