第5話 スランプ
後世に残るような名曲、、、それは千本桜やメルト、ワールズエンドダンスホールやモザイクロールなどボカロの歴史に残る曲だろう。
今までまともなヒット曲すら作れてない俺にそんな曲が作れるのだろうか…
メルトからボカロにハマった俺は、基本恋愛ソングをメインに作ってきた。ただミコに指摘されたように、恋愛経験が皆無な俺が恋愛ソングを作るのは、理に適ってないのかもしれない。
「なぁミコ、俺はどんな曲を作るべきだと思う?」
「そうだなぁ…私は人の感情とかがあんまり分かんないけど、自分の心の奥底にある感情をそのまま歌にしてみればいいんじゃないかな?」
「な、なるほど…」
心の奥底にある感情…俺にはどのような感情があるのか、はっきり言って俺自身にもよく分からない。
結局、その日は特に進展も無く終わってしまった。
その日以降もなかなか思うようには進まなかった。何となく歌詞を書いてみるのだが、どうにも薄っぺらく感じてしまう。ミコに最高の楽曲を作ると豪語した手前、なかなか納得するような歌詞が思いつかず悩んでいた。
そんな時、俺のスマホにLINEでメッセージが送られてきた。送り主は毎回俺の曲のMVを書いてくださっているmizuhoさんというイラストレーターの方だった。mizuhoさんとはかなり長い付き合いになる。俺が初めて曲を作った時にイラストを描いてもらい、それ以来、毎回お世話になっている。リアルで会ったことは無いが、LINEを交換するくらいには仲が良い。
mizuhoさんから来たメッセージは『新曲はまだ出来ないの?』という内容だった。かなりの頻度で曲を作っていた俺が、なかなか新曲を出さないことを不思議に思ったのだろう。とりあえず正直に返信することにする。
『すいません、今スランプのような状態でして…』
すると、すぐに返信が来た。
『君がスランプ?珍しいね、なんかあったの?』
使ってるバーチャルシンガーが俺の前に現れました。と言っても信じて貰えないだろうなぁ…
『特に何も無いんですが、納得できる歌詞が書けなくなっちゃって…』
『なるほど……失恋でもした?』
『してないです!!』
『んー、でも何か変だよ。君ってスランプとかになるタイプじゃないでしょ』
今まで薄っぺらい歌詞を量産してきたからか、スランプになるような繊細な人間では無いとでも思われているのだろう。
『いやー俺だってなる時はなるんですよー』
するとmizuhoさんは思いもよらない提案をしてきた。
『んじゃ、直接話を聞かせて』
へ?直接? これはリアルで会ってということか?
『え、あの、どういうことでしょうか?』
『そのままの意味だよ、直接会おう、って言ってるの』
『リアルでってことですか?』
『そう』
リアルで会う…そんなことは正直予想もしていなかった。っていうか俺は構わないがmizuhoさんはいいのだろうか、知名度もそこそこあるイラストレーターだぞ。
『俺はいいんですが、mizuhoさんはいいんですか?』
『私は全然構わないよ、君のことは信頼してるし』
『あ、ありがとうございます』
俺のどこに信頼する要素があるのかは不明だが、単純に嬉しく感じた。
『じゃ、日程はまた連絡するよ。会うの楽しみにしてるからね』
『はい!よろしくお願いします!!』
俺はハッキリ言って興奮している。イラストレーターとリアルで会えるなんて…もちろん下心なんて無いぞ、多分。ってかボカロPなら誰しも一度は憧れたことあるんじゃないか?いや、一緒にするなという声が聞こえそうだからやっぱ撤回しときます。
そんなこんなで俺がウキウキしていると、ミコが話しかけてきた。
「なんか嬉しそうだね」
俺はさっきのLINEのやりとりをミコに伝えた。
するとミコは言った。
「え、イラストレーターさんと直接会うの?」
「そうなんだよ!」
「その人って…女性?」
「まぁ、ネカマじゃない限りはな」
「そう…」
するとミコは少し複雑そうな顔をして、言った。
「私もついていく」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます