最推しで最愛のキミ

元 蜜

プロローグ 

「みんな! 今日は僕たちフォーシーズンのファーストコンサートに来てくれて本当にありがとう! 君たちと一緒の時間が過ごせて幸せだよ! 今日は一日思いっきり楽しんでね!」


 彼らが弾ける笑顔で両手を大きく振ると、会場中に黄色い声援が飛んだ。


 ここは有名歌手がコンサートを行うようなビッグドームではないけれど、この一地方都市では最も有名なドーム。そのドームの中を四色のペンライトが埋め尽くしている。


「サチ! 実物で見るハルくんマジでヤバいね! ……って、アンタ泣いてんの!?」

「ハハッ……推しに会えて感動したみたい」

「だね! だってさ、ずっと正体隠して活動してきたフォーシーズンの素顔が拝めたんだから、そりゃ感動もするよ!」


 ステージのセンターでは、目が眩むほどのスポットライトを浴びながら、彼らが声援に応えるために大きく両手を振っている。

 念願だった推しの顔。その顔を拝めた瞬間、嬉し泣きするはずだったんだけどな……。


 私の最推しは『ハル』という名前で、春の桜のイメージから担当カラーはピンク。メンバーの中では癒やし系キャラだけど、歌唱力は抜群で、歌うと格好良く豹変する。


 私ってバカだな。何百回も聴いた歌声だったのに、なんで今日まで気づかなかったんだろう……。

 人なっこくて柔らかな笑顔をしたハル。私だけに向けられていたその笑顔は、今こんなにも多くの女性たちに振りまかれている。


咲良さくら……頑張って夢叶えたんだね。おめでとう……」


 私の声は大声援にかき消され、目の前にいる彼に届くことはない。


 咲良との最後の思い出は3年も前のものだ。

 まもなく桜の季節が訪れようとしていたある日、彼は別れの言葉を告げることなく、突然私の前から姿を消した。

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