第102話:するorしない その3
「そ、それは……俺と、光が……ってこと?」
当たり前すぎる質問に、光はただ小さく首を縦に振った。
心臓が信じられないくらいに早鐘を打っている。
全身を血流がギュンギュンと音を立てて駆け巡っている。
したい。
もちろん、したいに決まってる。
光の身体で、まだ触れてない部分に触れたい。
最愛の人の、俺がまだ知らない部分を全て知り尽くしたい。
そんな男としての本能的な欲求は俺だって当然のように持っている。
ここでただ一言だけ――『したい』と言えば、それが叶う状況。
さっきから身体は血流を促進させて、そうさせろとうるさいくらいに猛っている。
「光は……? 光はどう思ってる……?」
「わ、私……? 私に聞くのは……ずるくない?」
「いや、だって……そういうのはやっぱり、二人の意思を合わせないといけないし……」
「う~……」
俺の言葉に、光は余った手をもじもじとさせながら所在なげに視線を動かす。
「そんなの……黎也くんとならしたいに決まってるじゃん……」
そして顔を真赤にしながらも、はっきりとそう言ってくれて俺は死んだ。
「……で、黎也くんはどうなの?」
いや、死んでる場合じゃない。
「…………もちろん、したい。俺も光としたいに決まってる」
なんとか現世に生を繋いで、俺も光に自分の気持ちを真っ向から伝える。
「ん……素直でよろしい……」
照れ隠しか、光が若干尊大な物言いで答えてくれる。
俺だけじゃなくて、光も同じ想いでいてくれた。
それは本当に嬉しいことだけれど、俺の答えにはまだ続きがあった。
「けど、今はまだ違うのかなとも思う……」
光の顔を真正面から見据えて、もう一つの本心も口にする。
「え? ま、まあ……私もみんながいるとこでってのは流石にあれだし……今度、黎也くんの部屋での方が……」
「そ、それもそうなんだけど……その、するってなったら色々と考えなきゃいけないこともあるわけで……」
「考えなきゃいけないこと……?」
「ほら、例えばその……妊娠の可能性、とか……? でも、光にはまだまだこれから先のキャリアがあって……もしもそうなったら、色々と将来設計の大幅な方向修正が必要になってくるわけで……」
「ん~……それはそうだけど……そこはちゃんとすれば大丈夫じゃない? さっきも言ったけど、私の方でもしてるし……」
「でも、それも100%ってわけじゃないよね……?」
保健の授業で習った知識でしかないけれど、しっかり避妊をした行為でも僅かな可能性は残ると聞いた。
「正直に言えばめちゃくちゃしたい……! 今すぐにでもしたいし、何回だってしたい……! けど、それがどんなに小さいものでも……光にだけリスクを抱えさせてるような状況なら俺らにはまだ早いんじゃないかなって思う……」
猛る本能をなんとか押し留めて、理性で決断を下す。
例えそれが万が一のことだとしても、光との未来の可能性に瑕疵を作りたくない。
ヘタレだとかビビリだとか思われようが、俺にとってはそれが初体験より何百倍も大事なことだった。
「だから……もし何があっても……俺が光の人生もまとめて支えられるようになるまでは、待っててくれないかな……?」
「つまり、高校卒業して……大学にも四年通って、就職したらってこと……?」
それは流石に長すぎないかと言いたげな目で見られる。
けれど、もちろん俺はそんな遠い未来の話をしてはいない。
「いや、実は俺……今、ゲームを作ってるんだよね。大樹さんたちと一緒に……」
今が最高のタイミングだと、光にはずっと隠していた話を告げる。
「えっ!? ゲーム!! ほんとに!?」
その単語を聞いた瞬間に、これまでのしっとりとした雰囲気とは打って変わって光は目を爛々と輝かせはじめた。
「う、うん……少し前から本格的に……タイミングがなくて光には言えてなかったんだけど……」
「どんなやつ!? アクション!? シューティング!? それともシミュレーション!?」
これまでの話よりも更に興味津々に迫ってこられる。
夏の夜空に浮かんでいる星々も、この瞳の輝くに比べれば全く劣って見える。
「い、いや……ターンベース戦闘のローグライクかな……」
「StS系ってこと!? 無限に遊べちゃうやつだ!!」
それだけの情報で、どんなゲームなのかをすぐに理解してもらえる。
すっかりこっちに染まったなぁ……と、少し感慨深い想いを抱く。
「まあ、そんな感じ……デッキ構築じゃなくて古典RPGを下地にしたパーティを編成していくゲームなんだけど……」
「え~……! すっごいおもしろそう……! それ、いつ遊べるの!?」
「まだ具体的な日付は決まってないんだけど……年内にはプレイアブルな状態にして、一旦アーリーアクセスって形で配信してプレイヤーの反応を伺おうかなって話はしてる」
「えっ!? 年内にはもうStreamとかで配信されるってこと!?」
「うん、商品として配信して……みんなからお金をもらって遊んでもらうことになる」
「え~、すご~い……楽しみだなあ~……! 生きる糧が一つ増えた感じ……!」
「で、さっきの話に戻るんだけど……」
子どものように目を輝かしている光に、改めて告げる。
「それが発売されて、ちゃんと商品として売れて……買った人が楽しんでくれたら俺も将来の道を決めようと思ってるんだよね。大樹さんとか他の人たちも結構気が早くて、これからも一緒にやろうって言ってくれてるのもあるし……」
ずっと昔から思っていたけれど、自分には無理だろうと諦めかけていた夢。
光のおかげで、それが今現実的な輪郭を帯び始めていることを伝える。
「うん! それ最高! 黎也くんなら絶対できると思う!」
目を更に輝かせて、両手で手をギュっと強く握りしめられる。
何の根拠もないけど、光がそう言ってくれるとこれで間違いないように思えた。
「だから、その時ってのは……どうかな? するのは……」
「その時……する……? あっ……!」
さっきまでの話をようやく思い出したのか、光が顔を真赤にして身を縮こまらせる。
「その時ならもし何があっても……俺も光のことを支えていける自信がついてると思うんだけど……こんな考え方ってやっぱ重いかな?」
「うん……すっごい重たいよ、それ……」
俺の問いかけに、光はジトッと目を細めて答えた。
「う゛っ……そ、そうだよな……やっぱり重いかあ……」
そりゃそうだ。
普通は高校生の恋愛で、ここまで考えてたらドン引きされて当たり前だ。
セックスだって、欲や成り行きに身を任せてするのが普通なはず。
直球の返事が胸にグサっと突き刺さるが――
「でも、だからもっと好きになっちゃった」
続けて光は満面の笑みを浮かべて、そう言った。
「も、もっと好きに……え? そ、その心は……?」
「だって、今のってほとんどプロポーズみたいなものだったもん」
「え゛っ!? そ、そうだった……?」
自分の言葉に隠れていた意図を指摘されて変な声が出る。
「うん。だって、黎也くんが私を養えるようになったら……ってことでしょ?」
「い、いや……そこまでの意味はまだ込めてなかったんだけど……」
「ダメで~す! 私はもうプロポーズとして受け取ったから今更取り消せませ~ん!」
受け取ったものを大事に抱えるようなポーズを取って言われる。
「えぇ……まあ……光がそう受け取ってくれたのなら、それでもいいけど……」
「うん! そうする! でも、黎也くんってば惜しいことしたよね~……」
「お、惜しいことって……?」
「だって、今えっちしたいって言えばさせてあげたのに」
ニヤッと悪戯な笑みを浮かべる光。
普段よりも少し艶やかなそれに、また少し欲がグッと湧き上がってきた。
こっちを攻める隙を見つけたら、いつだって怒涛の攻撃を仕掛けてくる。
「うっ……そう言われると、やっぱり惜しいことをしたような気もするけど……」
「ほんとに。長編RPGで一度きりの時限イベントを逃しちゃったみたいなもんだよ」
「けど、それよりも光との将来のことの方が俺にはずっと大事だから……」
そんな攻撃に精一杯の反撃として、もう一度俺の本心を告げる。
「……ほんとずるい……それ、やっぱりプロポーズじゃん……」
「え……? な、何か言った……?」
恥ずかしそうに目線を逸らして何かを呟かれたが、上手く聞き取れなかった。
「何も! ていうか、ほんとにそれまで我慢できるのかな~……?」
「そ、それはまあ……我慢するしかないし……」
「でも、あんまり待たせられるとやっぱやーめたって心変わりしちゃうかもな~……」
「え゛っ!? それはちょっと……いや、かなり困るんだけど……」
「じゃあ、頑張って早く完成させてもらわないと」
「はい……出来るだけ早く約束を果たせるように善処します……」
「黎也くんのえっち……」
「えっ!? な、なんでそうなる……!?」
光と二人で手を繋いだまま、月だけが見ている空の下でいつも少し大胆にじゃれ合う。
その夜、『もしかすると普通に流れでしてしまうよりも遥かに凄い約束をしてしまったんじゃないか……?』と悶々してまともに寝られなかったのは言うまでもない。
◆◆◆お知らせ◆◆◆
ここで改めて宣言しておきます。
ちゃんと書きます!!
その時が来れば、何があろうと誰に怒られようともしっかり書きます!!
だから、そこまでに挫けず書けるように応援してください!!
本も買ってください!! よろしくお願いします!!
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