第95話:海と陽キャと高級リゾートと その19
「おい! 小宮! てめぇ!」
「これだから彼女持ちは……!!」
「はっはっは! 策士策に溺れるってやつだな! まさか自分らが同じことをされるとは思ってなかったか?」
一緒に落とされた二人が恨み言を受けながら修が高らかに言う。
台詞自体はカッコいいが、既に最下位のスク水がほぼ確定してる人間が言っていると思うとなんとも言いづらい。
「やった……! 一位だ……!」
「ゴールゴール!! ゴォオオオオオル!! 第一レースの一位は藤本選手だぁ!!!」
三人が仲良く奈落へと落ちている間に藤本さんが悠々とトップでゴールした。
「くそっ……! でも、まだ二位と三位なら十分――」
落とされた二人が地上へと戻り、再びゴールへと向けて立て直そうとするが――
「いぇ~い! ご~る!」
「「なあああああっ!?!?」」
アイテムで砲弾に変身して無敵状態になった高崎さんが、再び二人を吹き飛ばして二位でゴールした。
「お先にしつれ~い」
続いてスタートダッシュを決めた松永さんから順番に、他の人も次々とゴールする。
直前で二度目のコースアウトを喫した二人は、最終的に六位と七位でフィニッシュとなった。
「いやぁ……第一レースから白熱した戦いでしたね?」
「あー……まあ、白熱したと言えば白熱してたんだろうけど……これ、一応レースゲーだよね? バトロワみたいになってるけど……」
俺の冷静なツッコミは熱狂によってかき消され、休む間もなく第二レースが始まる。
第二レースも第一レースと同じく、波乱に満ちた戦いとなった。
既に協力体制が露見した男子たちは初戦以上に露骨な妨害を行い、各々が罰ゲームの回避と上位入賞を狙う女子たちを苦しめた。
しかし、女子もゴールライン付近でアイテムを取りながら藤本さんをアシストするコースギミックと化した修を上手く使ってそれに対抗した。
結果として第二第三レースも同じような荒れ試合となり、最終レースを前にしてほぼ全員に入賞と罰ゲームの両方の可能性が残された状況となった。
「さあ、いよいよ残すは最終レースのみ! 解説の黎也くんさん! ここまでのレースを振り返っていかがですか?」
「えー……何か言いたいことがなくはないんだけど、想像を超える盛り上がりは見せてくれてるんじゃないかと。まだ最下位を除いて順位も確定してないし、この最終戦は一体どんな結末を迎えるのか誰にも予想がつかないですね」
参加選手たちは各々の目標のために、目をギラつかせてスタートを待っている。
ここで上位を取らなければコスプレが確定する松永さんはもちろん、普段はマイペースな藤本さんも陸上の大会に挑むような臨戦態勢に入っている。
最下位が確定している修も、まだ下位の目がある藤本さんを今回も全力でアシストする気だ。
唯一の例外が高崎さんで、彼女にとって罰ゲームは罰ゲームになっていないので普段通りの調子を崩していない。
今回もきっと下位から強力なアイテムを使いまくって試合を荒らすだろう。
「では、泣いても笑ってもこれが最後! 最終レース……スタートッ!!」
熱と緊張が最高潮に達したつつある中、光の号令で最終レースが幕を開けた。
まず、開幕で四人がスタートダッシュを決めて飛び出した。
藤本さん、松永さん、大場くん、椋本くん。
皆、元々センスがあったのか四戦目にして操作技術もかなり上がってきている。
そこに妨害役だった男子の木上くんと、安定したプレイを続けている山野さんが続く。
修はやはり最終戦もゴールラインの守護神と化し、最後尾を高崎さんがマイペースに走っている。
「絶対勝つ!! 商品券は私のものだ!!」
「おおっと! ここで松永選手が急加速! 一気に先頭集団から抜け出したぁ!!」
松永さんがアイテムのマリモを使って加速し、一気にトップへと躍り出た。
彼女は現在ポイント的に上位と下位の当落線上にいる。
ここで最低でも四位は取らなければ罰ゲームが確定。
もし、七位に沈めばバニーガールを着せられる可能性も残っている。
ここは絶対に負けるわけにはいかないと覚悟の炎を燃やしている。
「そう簡単にいかせるかよ! 行くぞ! お前ら!」
「「応ッ!!」」
「大場選手たち男子三人組も負けてない! 一丸となって先頭を追いかける!!」
一方でチーミング男子たちも気合は十分だ。
一人でも多くの女子を下位へと送り込むには、この最終戦で上位の独占は必須。
最後の最後で三人が一つとなり、先頭の大場くんが走るラインに追従していく。
最終戦は打って変わって、高い実力者同士の静かな戦いとなった。
上位は目まぐるしく入れ替わる一進一退の攻防が続き、あっという間にファイナルラップへ。
「さあ、長かった戦いも残すところ後一周……! 果たして、勝利の女神は誰に微笑むのか……!」
光がそう言った直後、ある人物に勝利の女神が微笑んだ。
「き、来たっ! スターだ!! 天運は我に有り!!」
アイテムボックスを通過した大場くんがスターを入手する。
本来は下位以外では出づらいアイテムではあるが、ここは運が彼に味方をした。
「いくぞお前ら!! ついてこい!!」
彼はコントローラーが壊れそうになるくらい力強くボタンを押下して、それを使用した。
アイテムの効果が彼の操作キャラが輝き出す。
この状態では速度上昇に加えて、他のキャラに衝突すれば一方的に相手だけをスピンさせられる。
「嘘っ……!?」
「あっ、やられちゃった~……」
「え~……後、ちょっとだったのにぃ……」
彼は加速効果で先頭を進む松永さんたちをただ追い抜くだけではなく、後続の仲間たちのために一人ずつ的確に弾き飛ばしていった。
そうして悠々とトップに立った三人がホームストレートへと戻って来る。
勝利は目前だが、そこに待ち受ける最後の関門を彼らは忘れていなかった。
「……来たか」
男子三人を視界に捉えた秀が重々しく呟く。
彼はゴール付近近くのアイテムボックスで何度もアイテムを厳選し、赤コーラを六つ抱えた完全武装状態となっていた。
既にスク水を着るのが確定しているとは思えない凄みを醸し出している。
「ここが最後の正念場ってわけか……!」
大場くんがそう言った直後、彼のキャラからスターの無敵効果が消えた。
「春菜は俺が守るッ!!」
それを見計らっていた修が赤コーラを一つ、彼らへと向かって発射する。
「椋本ッ!」
「おう!」
大場くんを守るように、椋本くんが前へと躍り出る。
彼はこの状況を見越していたのか、自らの周囲に防御用の緑コーラを纏っていた。
赤と緑のコーラがぶつかり、修の攻撃は相殺される。
残る二発も続けざまに発射。
しかし、それも椋本くんの緑コーラによって完璧に防がれてしまう。
勝利を前に、彼らの集中力は極限まで高まっていた。
「くっ……! でも、まだまだ……!」
修が保留状態にしていたアイテムから再び赤コーラを取り出して構える。
もう一度、彼らを止めるべく三連射するが――
「残念だったな、小宮ァ……!」
続けて後ろから飛び出してきた木上くんもまた緑コーラを三つ纏っていた。
彼も人生最高の集中力を発揮し、自らに向かってきた赤コーラを全て叩き落とした。
「じゃあな。後で一緒に、藤本さんのメイド姿を楽しもうぜぇ」
大場くんはニタァ……っと、物語に出てくる悪役のように醜悪な笑みを浮かべて手札の尽きた修を追い越していく。
もはや彼らを遮るものは何も無い。
残すは女子たちのあられもない姿へと続く、ウィニングロードのみ。
しかし、彼らはもう一人……修と同じく順位を度外視している存在を忘れていた。
「なっ……!!」
「「にぃ……!?」」
修を避けた先には、ゴールライン上に佇む高崎さんの姿があった。
「なんか、強そうなの出た~!」
そして、彼女のアイテム欄にはトゲトゲコーラのアイコンがあった。
それは一位のプレイヤーを目掛けて発射され、ロックオンされたが最期……回避はほぼ不可能な最強アイテムの一つ。
修はこの最終戦の前に、高崎さんを説き伏せて味方へと引き入れていたのだ。
俺だけはそれに気づいていたが、あえて何も言わなかった。
彼らのチーミングに口を出さなかった件も合わせて、これがフェアというものだろう。
とにかく一位を目掛けて発射されたトゲトゲコーラは大爆発を起こし、大場くんと近くにいた二人も合わせて三人をコース外へと吹き飛ばした。
「やったー……! ゴール……! 優勝だ……!」
「ぃよしっ!! これでとりあえず罰ゲームは回避!!」
「私もこれで罰ゲームは無しかなー……?」
その間に女子たちが次々とゴールしていく。
「う、うそ……」
「「だろ……」」
目論見が全て水泡に帰した三人が消沈してコントローラーを落とす。
まだレースは続いているが、彼らにはプレイを再開する気力は残っていなかった。
これにて第一回秀葉院マリモカート大会は幕を下ろした。
「いやぁ……いいものを見せてもらった……本当にすごかった……」
「うんうん、本当に手に汗握る大勝負でした!!」
皆の健闘に光と二人でパチパチと拍手を送る。
まさか俺の持ってきたスティッチがここまでの名勝負を生み出してくれるとは……。
ものすごい感慨深い気持ちを抱きながら拍手を送り続ける一方で、敗北した男子たちは『俺らはもっと良いものが見たかったんだ……』と涙を流している。
結局、六位から八位のドギツイ罰ゲームは男子で独占という形になってしまった。
ただ、彼らも言い訳はせずに男らしく罰ゲームを遂行した。
大変見苦しいものになったので、それがどういうものだったかは割愛させていただく。
女子たちはキャーキャーと騒ぎながら、本来禁止されている写真を撮りまくっていた。
明日には学校中にあの姿の写真が出回ってしまっているんだろう。
しかし、そんな哀れな男子たちに救いがなかったわけじゃない。
秀と協約を結んだ高崎さんは最終的に五位へと沈み、メイド服を着ることになった。
それは男子たちにとっては非常に眼福なものだったらしい。
ちなみにその間、俺は『見ちゃダメだから』と光に目隠しされていた。
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