戦火は消えず


「今回はちゃんと一人で討伐できたね」

「前ほど怖くなかったからなんとかいけました!」


 私たちは近くの魔王国近くの草原でミートリノを探して討伐を行っていた。まずは魔物と戦うことの恐怖心を消したかったからそれが目的だったんだけど……


「一回殺されかけたのが効いてるのかな?」

「それが一番かもです、あれ喰らっても死なないってわかりましたし」

「じゃあしばらく色んなのを討伐していこっか」

「おっけーです!」


 それから私たちは色んな魔物を討伐して回った、牛だとかイノシシだとか豚だとか兎だとか……なんか動物系が異様に多かったけど多分そういう風に湧きを調整してるんだろうなと考える。おかげで明日香ちゃんの練習にはなったし助かったけど。ということでしばらく狩りを行った後狩った魔物で私たちはちょっと早めの晩ごはんを作り始めた。キャンプイメージでカレーにする予定だ。


「いい匂いしてきたね~」

「ですね……お腹へった……」


 お肉がトロトロになるまで煮込む。そしてご飯を用意してルーをかける。ちなみにご飯は地球で言うとこのレンチンで出来るやつ見たいな物で魔力を流すことで作れるらしい。開発した人に感謝だね。


「「いただきまーす!」」


 明日香ちゃんと声を重ねカレーを頬張る。よく煮込まれた具材は柔らかくなっていて特にお肉は噛まなくてもいいぐらいになっている。


「美味し〜!」


 明日香ちゃんが足をバタバタさせながらカレーを堪能している。ちょっと行儀が悪いかもだけど私もそうしたいぐらい美味しい。和くんさえいれば完璧だったなぁとちょっと残念な気持ちになりながら食べ進めていく。


 それから夢中で食べ進めて二人とも10分程で食べ終わって片付けをする頃には陽が沈みかけていた。


「さ、帰ろっか」

「はい!」


 帰るための一歩を踏み出した瞬間私の頭を何かの魔術が貫いた。


「え……?」


 明日香ちゃんの困惑する声が聞こえる。そりゃ当然か、さっきまで楽しく話してた相手が頭をぶち抜かれたのだから。


「……やっと手を出してくれたね」


 ただここまでは私の予想の範囲内。


 実は魔王城を出てからずっと嫌な視線を向けられていたのだ。しかしそれを確実に捕らえるだけの手段が無かった。一人じゃなかったし位置もわからない、なら手を出してくれるまで待つしかない。


 じゃなきゃ戦争が終わった直後の世界でわざわざ外でキャンプなんてしない。


「ごめん、先に帰ってて」


 それだけ言って明日香ちゃんを和くんのいる場所に転移させる。和くんの場所はずっとマークしてるしこれを間違えることはない。


 私を狙撃した瞬間相手は全員何かしらの反応をしめした。心の変化、身体の身動ぎ、だいたいの位置は元々分かっていたのだようやく全て見つけれた。


「さ、全員死のっか」


 グッ、とタメを作った後に私はドンッと地面にクレーターを作って跳ぶ。


 一秒足らずで一人目の正面に跳んで勢いのまま腕を振り下ろす。


「あ──」


 情けない最後の言葉を残してソレは死骸になる。


「次」


 先の戦争で二度の肉体変化を使ったからか今の私は随分とうまく力を使えるようになった、それでも全盛期には程遠いが。けど今この瞬間雑魚を殺すには充分すぎる力だ。


 一度目と同じ要領で屠っていく。三人目から逃げ始めていたが見逃すことはない、私を狙撃した相手を残して四人殺し終わる。


「さ、貴方が最後だよ」

「このバケモノがぁ!!!」


 銃声がなり私の身体を穿つ。確かショットガンっていうのかな?私の左胸の辺りに大きな穴が空く。当然何かしらの魔術が使われていたのだろう大砲みたいな威力だ。


「終わり?」

「……は?」

「攻撃は終わり?殺してもいい?」

「なんで死なねえんだよぉぉ!!」


 半ば絶叫に近い叫び声を上げながら銃を乱射される。私の身体を幾つもの銃弾が貫く。


 痛みはないし別に防ごうと思えば簡単に防げる、けどめんどくさいからやらないだけ。どうせ死なないしね?


「はぁっ、はぁ……」

「終わった?」

「ひっ!」


 流石に身体に穴が空きっぱなしなのは気持ち悪いので回復させながら問う。


「じゃあ死んでね」


 逃げることすら諦めた男の首を手刀で跳ねる。


「さて……どうしよっかなー」


 組織的な犯行だろうしその組織は多分戦争をした相手、女神教だろう。ならばこの戦闘の情報は向こうに渡っているだろうし今日していたことも伝わっているはずだ。


 明日香ちゃんという私たちの弱点が。


「どこまで伝わってるか、だよね」


 とりあえず先程切り落とした頭を掴んで情報を抜き取る。ここから手に入る情報次第でこれからの動きを決めよう。


「ん〜……無理そうかなぁ……」


 基地らしき場所や他の構成員など様々な情報が入ってくる、そしてそれを考えれば既に相手の上層部に情報が伝わっているだろうということがわかる。伊達に魔王相手に準備をしていたわけではなさそうだ。


「……長い戦いになりそうだね」


 こちらから一方的な殲滅をするだけでは終わらなさそうな相手、和くんを始めとした魔王軍が把握していなかった相手。厄介なのは無理もない。


 いや、勇者という存在を娯楽として消費し世界を支配していたのが原因なのだ。少なからず存在した慢心や油断をつかれた形。支配するならもっと完璧にするべきだった、それだけ。


 そこまで考えたとこで目の前にあった死体が無くなっていることに気づく。


「……回収された?」


 疑問を口にしたと同時、答えが寄ってきてくれた。


「ふしゅる……」

「……キモっ」


 私が殺した死体、それぞれが合成獣キメラの素材になったようで気持ち悪い見た目をしている。ベースは獅子で全身が炭のような黒い体毛に覆われている。尻尾はヘビのようになっていて身体には人の頭が四つ付いている。


「死体をちゃんと処理しないとこうなるのね」


 この情報は有益だろう。これからの戦いで死体が突然合成獣になった、ということになるのを防げる。


「バウッ!!」


 合成獣の前で呑気に考え事をしていたからか痺れを切らして思い切り噛み付いてくる。


「結界の味はどう?美味しい?」


 当然その攻撃が通るわけなく結界で防ぐ。ついでに結界の形を少し変えて口を大きく開けた状態で捕まえる。


「ちゃんと消し飛ばしてあげるね」


 手に光の弾を作り、熱を持たせる。そして銃のように構えた指先に移動させる。


「《消し飛べ》」


 神力ではなく魔力で、言霊を使用して放たれた光線は3m近くはある合成獣をあっさりと飲み込み溶かす。


 光が晴れた時にはもう何も残っていなかった。


「終わーりっと」


 最後に何も残ってないことをもう一度確認した上で転移を使って魔王城へと帰る。


「ただいまー」

「おかえ……風呂いくか?」

「うん、そうする」

「着替えは置いといて貰うからすぐ入ってきな」

「はーい」


 血だらけの私をみて和くんにお風呂を案内される。私はなんの気なしにお風呂場まで移動し扉を閉めた所でズルズルとその場に座り込む。


「やっちゃった……」


 誰が好きな人に自分が血だらけになった姿を見せるというのだ。しかも服はボロボロだしなんなら血は殆ど全部自分のだし。ハロウィンの仮装でもこんなにボロボロの自分を見せることなんてない。


「うぁぁぁぁ……」


 ゾンビのように呻き声を上げて天を扇ぐ。


 のそのそと服を脱いで風呂場に行ってボーッとしながらシャワーを浴びる。血が流れた所で湯船に倒れ込んで死体のように浸かる。


「……はぁ」


 何とも言えない感情にため息を吐いて私は少し目を閉じた。



ーー和樹ーー



 咲希達が外出してすぐ俺は魔王城内の庭園に来ていた。魔王城のすぐ隣に存在する形である庭園は星見先輩が神に肉体を乗っ取られた後に落とされて咲希にボコボコにされた後が今でも残っている。そしてそこから夜な夜な変な光が見えるだとか変な声が聞こえるという報告が後を絶たないので暇つぶしついでに確認に来たわけだ。もっとも夜じゃない今その現象を確認できるか怪しいが。


「何度みてもここだけ地獄だよなぁ……」


 その周囲だけ真っ赤に染まった木々、このすべてが血だというのだからボコボコにされた神は相当のトラウマを負ったに違いない。そんな感想を抱いていると木々の隙間からこちらを覗くような視線に気づく。


 そちらに視線を向けてみれば青白い光が……人魂みたいなものがいた。


「……は?」


 魔王城に幽霊。建設以来そんな話は聞いたことない。確かに人間はよく死んだし事故物件と言えばそうなのだが幽霊なんかになってこの世に留まるような処理はしていない。ということははぐれ幽霊とかそういうのだろうか、魔王城に入ってくるなんてなかなか度胸がある。


「!———!!」

「あー……ちょっとまて、今翻訳するから」


 そんな幽霊は俺を見つけると嬉しそうに近寄ってきて必死に何かをアピールしてくる。目の前で明滅したり収縮したりして視覚的にかなりうるさい。落ち着いてもらうために手早く翻訳の魔術を使用する。


「これで話してみてくれ」

『あー、あー。聞こえる?』

「聞こえるよ」

『よかった……やっと君を見つけれたよ……』

「もしかして……星見先輩ですか?」

『正解!乗っ取られたあげく咲希ちゃんにボコボコにされた星見先輩だよ!』

「意識あったんですか」

『サキチャンコワイ』

「それだけ元気そうなら心配する必要もないですね」

『ちょっ!どこいくの!?』

「いや普通に部屋に戻ろうかと」

『普通ここは助けるとこだよ!?』


 冗談ですよ、と落ち着かせつつどうしたものかと思案する。とりあえず仮の肉体を作ってそこに入ってもらうか、それか元の肉体をどうにかして取り戻すか。そんな考え事をしている間も先輩は俺の周りをふよふよと漂ったりして遊んでいる。この人一回死んで性格が変わったのか?ってぐらい元気だ。俺の中では常に落ち着いている美人って感じだったんだが……。


「とりあえず一緒に戻りましょうか」

『咲希ちゃんはいる?』

「今は出かけてていませんよ」

『ならよかった……』

「もしかしなくてもトラウマだったり?」

『しばらく会話も怪しい自信があります』

「まぁそうでしょうね……」


 そんな先輩を連れて俺は部屋に戻る。それから先輩に色々と処置を施してそこそこ時間が経った頃、突然真隣に明日香が転移してくる。


「何があった?」


 何かがあった、という前提で俺は警戒をしつつ明日香に問う。


「お姉ちゃんがいきなり頭を撃たれて……それでその勢いのままここに送り返されて……何が何だかわかんない」

「襲われたのか?」

「多分、お姉ちゃんは何か気づいてたっぽいけど」

「まぁ咲希がいるなら大丈夫だろ、明日香はケガとかないか?」

「うん私は大丈夫」


 一応咲希のいる周辺を探知したりしてみるが問題なさそうだ。既に蹂躙しているようだし警戒しなきゃいけないほどの強さを持っているようなやつもいない。大人しく帰ってくるまで待ってていいだろう。


「とりあえず帰ってきてから色々全部話すか」


 そう決めて俺たちは咲希の帰りを待つことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

転生魔王と転生女神の異世界攻略 水姫 唯 @rose-lily-mitu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ