有楽ちゃんの水面下

@kasugaihaku

花車

 ぽつぽつと降る雨がやみ、空を覆う雲の隙間から光が差す。

紅いリボンと共に髪をなびかせ、ぼんやりと明るい部屋の障子があけられる。

 少し湿った下駄に足を通し、落ちてしまったつぼみを拾い上げた。ぼそりと可哀そうにと呟く。その瞬間後ろに気配を感じ、振り向くとおかっぱ頭の可愛らしい女の子がたっていた。

「有楽ちゃんっ」

飛び散る泥もお構い無しに走り出し、ふわりとリボンが解ける。

「そんなに焦らなくても」

目を細め笑う有楽ちゃんの手を握る。

「じゃ、行こ。椿ちゃん」

「うん」

嬉しそうに応える。歩きながら綺麗なリボンに泥が染みるのを少しだけ確認した。

そんなことは別にどうでもいいと思ってしまった。

  

 いつも通りのちょっぴり泥の混じった川につく。歩きながら摘んだ沢山の花を抱え、有楽ちゃんと手を繋ぐ。

ぼしゃんと水がはね上がり、今まで居た道を濡らす。

 蓮の根を、掻き分け有楽ちゃんが先頭で進む。水面下から見る空はさっきよりもすこし

綺麗に見えた。

いつの間にか蓮の根は消え、水の中を突き進むメダカが横切る。たくさん持ってきていた花を放り上げた。ゆっくりと落ちてくる花弁を手に乗せる。

「ねえ、見て!」

有楽ちゃんの視界を私に集中させる。

「綺麗だね。」

有楽ちゃんはいつものようににこっと目を細め笑った。そうすると手を伸ばしぐるぐると回し、

「こうすると、見て。」

落ちてくる花弁が円を描き、水流に乗っている。

「凄い!とっても綺麗。」

有楽ちゃんの髪がなびく。落ちた花弁が舞い上がった。私の宝物。

 川底に沈んだ丸太に座る。いつもの場所。

少しの雑談をしていたら、段々とまぶたが重くなり有楽ちゃんにより掛かる。

「ありがとね。」

有楽ちゃんの言葉が聞こえた様な気がした。


 辺りはすっかり暗くなっていた。上機嫌な私の手に握り締められていたのは、泥がすっかり染みきったリボンだけだった。





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