第13話 獲物

「私は国際警察連合 ビセン少佐だ。お前達を組織犯罪の罪で拘束する」

 国際警察連合とはグローバル化に伴い犯罪もグローバルになり個別の国では対応出来なってきたことで新たに設立された警察機構である。国際的テロに対抗する必要から軍的な色合いが強く、階級も軍に習っている。

 フィンガーレスグローブに、黒に金縁がされた詰め襟を纏い佩刀している。一歩間違えばコスプレとなってしまう格好だが、笑わせない本物の凄みがある。そして黄金の瞳に銀髪の長髪と相俟って一種神秘的な雰囲気を纏っている。

 代わりに彼の部下達はビセンの引き立て役としか思えないグレーの野戦服とシンプルであった。

「馬鹿な俺達が組織犯罪だと!?」

 自覚が無かったのか山伏達は本気で驚いている。山伏達に取ってみればこの国の設立からある根の国の正統な活動をしているだけなのである。あおいを襲ったのも同じ歴史を共有する葦原の国との神聖な戦いであり、犯罪と貶められる謂れはないのである。

 激怒する山伏の中、先程黄泉に進言していた山伏は事態を冷静に見ているのか、黄泉を自分の背に隠した。

「何を驚く、現に徒党を組んで少女に襲い掛かっていたでは無いか」

 自覚の無い山伏達にビセンは呆れたように言う。

「これは由緒ある行いである。部外者は遠慮願おう」

「弁明は牢屋で聞こう」

 山伏達の要求などビセンは全く取り合わない。これが日本の警察ならば長年の歴史で根を張っていることもあり鼻薬などで黙らせることも出来たかもしれないが、国外ではその力も及ばない。

「これは決して下劣な犯罪では無い」

「くどい。

 地此奴らを拘束しろ」

「「「はっ」」」

 打てば響く小気味よい返事と共にビセンの部下達は銃口を山伏達に向けた。

「大人しく投降しろ。手を頭に乗せて地面に伏せろ」

 山伏達は何か手は無いかと周りを見つつまだ抵抗する素振りを見せている。ビセンの部下達は山伏達の破れかぶれの抵抗を警戒しつつ銃口を向けたままジリジリと迫っていく。その様子を見るとビセンはあおいの方に向く。

「危ないところでしたね。

 さあ、保護しますので此方に来て下さい」

 ビセンは女ならうっとりする笑顔であおいに手を差し出す。差し出された手をあおいは取らずに一歩跳び下がった。

「どういうことですかな」

 ビセンの片眉が上がる。

「貴方、怖いわ」

「怖いですか」

「もし警察の人ならあの人達を連行して、私のことは放って置いて下さい」

「そういう訳には行かないことは分かるでしょう」

「私にはやらなければならない事があります。

 誰だろうとこの使命を邪魔することは許しません」

 あおいは相手が国際警察連合だろうが従わない意思を見せる。

「美しい。その権力に屈しない強い光を帯びた瞳。わざわざ私が出向いた価値があるというものだ。

 お前達演技は終わりだ。さっさとゴミを片付けろ」

「了解」

 ビセンの部下達は命令一下躊躇うこと無く引き金を引いた。

 ズバババババババババババババババ

 アサルトライフルが火を噴き、山伏達を薙ぎ倒していく。

「なっなんてことを」

「心外ですな。貴方を襲ったゴミを片付けただけですよ」

「人の命を何だと」

「その怒りに染まった表情も美しい。

 では貴方の真価は俺自ら確かめよう」

 ビセンはゆっくりと抜刀し八相に構えた。

「言っておく、逃げようとすればその瞬間終わるぞ」

 言われるまでも無い。あおいはビセンから並々ならぬプレッシャーを受けていた。背を向ける余裕は無い。

 あおいもまた杖を構える。

「いい判断だ。

 では行くぞっ」

 ビセンは踏み込むと同時に刀を三日月の軌道を描いて払う。あおいは剣を紙一重で回潜りビセンに踏み込むが、ビセンは振り払った剣を燕のように返してあおいに再度斬りかかる。

「くっ」

 あおいはビセンに攻撃するのを中断して杖で剣を受け止めた。

「いい、いいぞ。今のは美しい攻防だった。

 どんどん上げていくぞ、食い下ってこい」

 ビセンの剣戟は言葉通り一撃ごとに速く重くなっていく。対するあおいもただ者では無い。杖で巧みに剣戟を受け流し捌く。

 その攻防は剣舞を見ているかのように美しかった。

「いい、うっとり陶酔してうっかり殺してしまいそうだ」

 ビセンの薙ぎ払いを狙っていたかのようにあおいは剣を飛び越え剣を踏み台にして更に舞い上がる。

 頭上からあおいがビセンに杖を鋭く振り下ろす。ビセンは剣を踏み出しにされ剣先が下がってしまっている。ここから剣を振り上げるよりあおいの振り降ろしの方が早い。

 決まったと思った瞬間。

 ビセンは刀の柄頭であおいの杖の一撃を迎撃しいなした。

「なっ」

「合格だ」

 ビセンは空いた左手で空中で避けることも出来なくなったあおいの腹に掌底を叩き込む。

「ぐはっ」

「まだだぞ小娘」

 腹にめり込んだ掌底からスパークが迸りあおいは気絶した。ビセンは左手のグローブにスタンガンを仕込んでいたのだ。

 ビセンは気絶し力なく墜ちるあおいをそのまま受け止めた。そしてビセンはあおいの両手足をまとめて縛り上げた。

「これでじゃじゃ馬も暴れられまい」

 ビセンはあおいをエアバイクの後部に吊し上げ、あおいはまるで狩られた鹿のような有様である。

「よし、私は帰投する。お前達はそのゴミを片付けておけ」

「はっ」

 ビセンが乗り込んだエアバイクと護衛の一機が飛び上がり、あおいを吊り下げたままに空の彼方に去っていくのであった。

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