長歌(拙作~「白露」より)

篠川翠

第1話

遠き日に 池のはたにて 手を引かれ 兄人せうとのごとく 思ひしが江戸へ発ちたる 広き背を送らむとせば 沈みけり思ひ及ぶは我が心 君欲するや 我が華を咲かしてみせむ にはのなでしこ


とこしへの 比翼連理ひよくれんりを誓へども 諸行無常の 砲の安達野あだちの揺らし 焼け果てたり君が形見の 雛鳥ひなどりは 秋水しゅうすいに身を 震はせてもののふなりと なほ君のごと


<現代語訳>子供の頃に池のほとりで手を引かれたときから、貴方様を兄のように思っていましたが、江戸へ出発する貴方様の広い背中を見送ろうとして、泣きたくなりました。そして気づいたのです、自分の心に。貴方様は、私を娶りたいと思ってくださいますでしょうか。(それならば)咲かしてみましょう。庭の撫子を。


永遠に夫婦であろうと誓いましたが、 私達の日常を変えてしまった砲の音は安達野を揺らし、二本松は焼け果ててしまいました。(ですが)貴方様の形見である息子は、秋の水に身を震わせて「武士として生きる」と誓ったのです。やはり貴方様のように。


タイトルは「れんぼか」と読みます。

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