第23話 海⑥

 しかし、それから俺の身に何か起こるわけもなく、普通に海で遊んでいた。

 唯一変わったとすれば昼食を食べ終わった後の方がとても楽しく充実していた。


「智今何時?」

「今は……十七時過ぎ」


 修哉がそう聞くのでスマホで確認すると、画面には十七時十二分と表示されていた。


「もうそんな時間か…。時間も時間だしそろそろ帰るか?」

「そうだね」


 辺りを見れば今はまだ夏なので十七時とは感じないぐらいまだ明るかった。

 しかしそれでももう十七時なので帰った方がいい。

 修哉がそういうと全員了承してくれた。


 俺たちは荷物を片付けてから再び着替えるため更衣室へと向かった。


―― ―― ――


 ほどなくして着替えが終わった俺たちは朝通った道を再び、今度は帰りの方向へと歩く。

 またここで違うのは話をして向かうので、気づいたら駅についていた。


「帰りも駅違うんだっけ?」

「あぁ、その方が帰りやすいし」


 帰りの駅は行きと同様全員自分の家が近い電車に乗るので電車が来たらここでさよならだ。

 とはいっても来るまで時間があるので談笑をして待つことにする。


「あ、そうだ江崎くん」


 すると水瀬さんが何かを思い出したかのように俺に話してきた。


「連絡先交換しようよ」

「あー、忘れてた」


 俺は今日もうすでに充実すぎるほど充実したので交換どころか連絡先の存在ごと抜け落ちていた。


「あ、僕ともしよ」

「私もするする」

「うん、いいよ。……あー、ごめん教えてくれない?」


 水瀬さんの言葉で俺同様思い出したのか坂上くんと玉井さんも交換しよう言ってきた。

 俺にとってはねがったりかなったりなのですぐスマホを出すのだが、まだ連絡先の交換の操作に慣れていないので水瀬さんに交換ついでに頼んでみる。


「はいよ」


 結果は快諾してくれた。


「ここを…押して……でこれをかざして」

「ここを押して…これをかざすと…お、出来た!ありがとう」


 水瀬さんの言葉を復唱しながら操作すると、スマホからピロンっと音が鳴り、ホームに戻ると一番上に『水瀬』と表示されていた。

 続けて坂上くんとも先ほどと同じように操作をしてみる。


「ここ……かざす…出来た!」


 出来ると同じ音がし、ホームの一番上には今度は『玲』と表示されている。

 そして最後に玉井さんとやってみる。


「…………出来た!」


 玉井さんの時は復唱せずとも出来、ホームの一番上に『たま』と表示されていた。

 やっと一人でできるようになった……。


 スマホをそう思い眺めていると突然アナウンスが聞こえたかと思えば、後ろから俺と花守さんが乗る電車が走ってきた。


「お、来た。それじゃまたな」

「おう、じゃあな」

「行こうか花守さん」

「はい」


 そう修哉たちに言うと俺と花守さんは電車に乗り込むと、ドアが閉まり電車が発車した。

 電車の中はそれほど混んでなく、俺たちは近くに席に座った。

 俺は右手に持っていたスマホをつけ、メールを開くと画面には『たま』『玲』『水瀬』と新しく三人が加わった。


「江崎さん良かったですね」


 すると花守さんが微笑みながらそう言ってきてくれた。


「…うん、すごい嬉しいよ」


 そうしてしばらく画面を見てから、家に着くまで花守さんと楽しく話していた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る