教会を出発してから2時間近く経とうとしていた。

「こんなに遠かったっけ……。」

「だってずっと遠回りばっかりしてたじゃないですか。いろんなお店を覗いたりして。」

「30分くらいで着くと思ってたんだけどな……。」

やっと林に着いたところである。ここから目的地であるスミソナ池まではもう少しあるが、モニも叔父も少し疲れていた。

「休憩休憩。」

叔父がよっこいしょ、と年寄りの見本のような仕草で木の根に腰を掛けた。モニも近くに腰を下ろす。叔父が鞄から水筒と先ほど買ったサンドイッチを取り出し、一つをモニに渡した。

「ちょっとしたピクニックみたいだね。」

サンドイッチの包みを開きながら、叔父がにこにことモニに笑いかける。

「最後にピクニック行ったの、いつだっけ。大分前だよね。2年くらい前かな?」

「結構前ですね。でも僕たち、庭でご飯を食べることも多いじゃないですか。ほとんどピクニックみたいなもんですよ。」

「そうかもしれないけど、家から遠いところで食べる、ってのがいいんだよ。これからはたまにやろうよ、ピクニック。」

「いいですよ。といってももうすぐ冬ですけどね。」

「冬だって頑張ればできそうじゃない?火を起こしてスープとか作ったら楽しそうだよ。」

「ピクニックごとき頑張りたくないし、それはもう野営というのでは?」

「野営は野営で楽しいと思うんだけどな。」

指についたマスタードを舐めながら叔父が言う。

「ここ、いつもこんなに人がいないんですか?」

モニはポケットからハンカチを取り出して叔父に渡した。

「ありがとう。いや、いつもはきのこを採りに来る人が一人か二人いるんだけど、今日はだれもいないね。たまたまじゃないかな。まあ、賑わうような場所ではないしね。」

「一番近くの民家も歩いて5分以上離れてますし。夜中にこんなところに呼びつけるなんて非常識極まりないですよ。夜中に呼び出すこと自体非常識ですけど。道はそれなりに舗装されてますけど、暗くて歩けないじゃないですか。僕、本当に暗いの嫌い……。で、叔父さんは一体何をしているんですか?」

モニの氷のような声に叔父がびくっと肩を震わせる。空になったサンドイッチの袋に何かを詰めている。

「いや、いい舞茸だなと思って……。今日の夕飯はきのこ鍋にしようよ。」

「すごく本来の目的を見失っている気がする……。」

「こういうのはね、楽しんだもの勝ちだよ、モニ君。」

「確かにぶらぶら散策していた時は僕も手紙のことを忘れてました。」

「でしょう。だからモニも、食べ終わったんならそのへんに生えているきのこをむしって欲しいな。」

「嫌ですよ、手と服が汚れるじゃないですか。あ、そうだ、これ半分こしましょう。焼きたてらしいですよ。」

先ほどのフィナンシェを袋から出す。まだほんのり温かい。

「いいの?ありがとう!いい香りだね、ダージリンかな?」

「直接口に入れるんで、その汚い手をどけてください。」

フィナンシェを半分に割り、叔父の口にねじ込む。おいひい、ともすもす口を動かしながら叔父が感想を述べた。モニも食べてみる。バターの豊かな風味と、少し遅れて優しい紅茶の香りを感じる。確かに美味しい。飲み込んだ後に叔父が言う。

「あったかいミルクティーが欲しくなる味だねえ。」

「僕はホットミルクが欲しくなりますね。ミルクティーと紅茶フィナンシェって、味がかぶりません?」

「ホットミルクか。確かにそっちの方が合うかも。」

「あのお菓子屋さん、いいお店でしたね。」

「次はケーキも買ってみよう。」

よいしょ、と勢いをつけて叔父が立ち上がる。

「さて、あと一息だ。そろそろ行こうか。」

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