調査開始

翌朝、朝食を摂った後、モニと叔父は役場に向かった。地図と教会の会報など、こまごまとした書物の閲覧を願い出る。

「地図はあまり変わらないね。ここ最近新しい集落ができたりもないみたいだ。」

叔父が呟く。

「おや、ここに橋を架けたのか。気づかなかったな。川向こうの林によくきのこを採りに行くんだけど、家からだと結構遠回りだったんだよね。だから中心街に買い物にいくついでに寄っていたんだけど、橋ができたんなら家から行けるな……。」

「なんで買い物に行くだけで泥だらけになるんだろうと思っていたけれど、ちゃんとした理由があったんですね。ただの頭のおかしい人かと思っていました。」

「泥だらけになった日はきのこをたくさん持って帰っているじゃないか!」

「ここは役場ですから、静かにしてください。それに、きのこなんかのことより手紙のことを考えましょうよ、叔父さん。」

手持ちの地図に現在の情報を書き足していく。さほど変化はないが、農業用のため池や農機具倉庫の新設が数か所あった。

続いて教会の会報を開く。中心街には教会が一つあり、小さい子供たちの学校としての役割も担っている。この街は集落が広範囲に散在しているため、他にも分校という形でいくつかの教室が存在する。また、教会の裏手には女子修道院があり、こちらは学校の他、助産院としての役割を担っている。ロビンの母が上3人を出産したのもここだ。教育内容は教会と同じだが、こちらでは希望者に対して家政学なども教えており、女子生徒が多い。基本的な読み書きや計算、教養としての歴史、生活科学を学び終えると教会の学校を卒業し、各々の進路に応じて上の学校に進むか、家業を継ぐために修行を始めるかを決める。この街は農業が主産業であるため、半数ほどの子供は家業を手伝いながら農工会が開催する講義に参加する。以前は農地や作物、家畜の管理に関する教育がほとんどであったようだが、最近は租税や関税の計算なども教えてくれるため評判はいい。

「子供のことは教会に聞くのが一番だ。とりあえず中心街の神父さんに話を聞きに行こうか。」

教会の会報には活動報告は載っていたが、生徒の数や教員の名前は載っていなかった。ひとまずそれぞれの分校の位置を地図に記して叔父が言う。

その後、住民台帳を確認する。一昨年の街の総人口と大まかな人口分布は載っていたが、集落ごとの資料はなかった。人口に関しても、叔父が昨夜推察したものとそう違いはない。いくつか似たような資料を適当にめくるも、めぼしい情報は得られなかった。

最後に総合年鑑を開く。街の沿革をまとめたもので、叔父は5冊ほど閲覧を願い出ていた。学校教育や農地の発展、街の名士や著名人、各地主の家系図、治水計画など、全体をぱらぱらと流し読む。この辺りになるとモニはだんだん飽きてきて、ぶらぶらと役場内を歩き回る。受付の脇に今週の新聞が何誌か陳列されていたので手に取って眺めてみた。鉄道敷設の最新情報が載っている。適当に何誌か眺め、暇そうにしていた受付の女性と少し雑談をする。

そうこうしていると、叔父が年鑑を閉じて伸びをした。寄って行って片付けを手伝い、受付の女性にお礼を言って資料を返却する。モニと叔父は日差しに目をしぱしぱさせながら役場を出て、大通りへと進んだ。

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