花と剣

鬼郷椿

第一話 合併と出会い

「本日より、我が麗しの女子高である星華学院は、隣にあった兄弟校である男子校の、星龍学園と合併します。みんな、仲良くするようにね。今、生徒会を中心に交流を深める行事を考えてもらおうと思っているから、考えておいてね。以上、教室に戻っていいよ。」

今日は、厄日かもしれない。

いきなり全校朝会だと言われて体育館に行ってみれば、あまりにも唐突なことを言われた。


私たちの星華学院は、この国有数のお嬢様学校で、かくいう私も大財閥の一人娘である。そんなご令嬢だけが通える学校なのに。

今回合併することになった星龍学園は、この国有数の底辺校だ。全国テストなどで、偏差値十五が過去最高記録だという。その人は表彰までされたらしい。


こんな正反対の学校が合併したって、うまくいくわけないわ。

しかも、その交流のための企画は生徒会がやるって、冗談じゃない。

いきなり言われたって、無理だ。

正直、家族以外の男の人と話したことなんて、数えるほどもない。


仕方なく、教室へと足を運ぶ。

もうすでに男の人がいると考えると、少し怖い。

「お姉様! 大変なことになりましたわね。」

「本当ね。校長先生は何をお考えなのかしら。」

お姉様といっても、姉妹ではない。みんな、『生徒会長である』私を慕って親しみを込めてお姉様と呼ぶのだ。

「生徒会の企画も、頑張らないとですわね。」

「一緒に、頑張りましょうね。」

彼女は、楼城昭明さん。生徒会副会長だ。

つまり、いきなりの提案の被害者の一人だ。

「それでは、ごきげんよう。」


教室の前に着く。

いきなり中からギャハハと声が聞こえて驚く。

「お、お姉様〜!」

みんな、教室に入れなかったみたいだ。

「落ち着いて、私がいくわ。みなさん、きちんとついていらしてね。」

恐る恐る、ドアをノックする。

「お、来た来た〜、星華のお嬢様方。入っていいよ〜。」

中から聞き馴染みのない低い声が聞こえる。

「し、失礼します。」

ドアを開けると、中は無法地帯だった。

着崩しをしている生徒たち、そしてみんながみんな髪を染めている。

茶髪、金髪ならまだしも、赤や青の人もいる。

すぅーっと血の気が引いていく感覚がする。

「ひゅー、可愛い子がいっぱい!」

赤い髪の人①が話す。

「ほんとだ!めっちゃ可愛い。食べちゃいたいくらいだ。」

青い髪の人①が話す。

待って、食べちゃいたいって何?

みんなが怖がっている。

私の可愛いご学友を怖がらせるなんて、許せない!

「…あの、」

思い切って口を開いた時。


「やめろよ、みんな怖がっているじゃないか。これから一緒に過ごすんだから、優しくしろ。それとも、俺の喧嘩を買うか?」

唯一茶髪の人が口を開く。

「ぃ、いえ。総長の喧嘩を買う気はありません。」

二人がしおらしくなる。

優しい人も、いるみたいだ。

まぁ、総長って呼ばれてるくらいだから、碌な人ではないと思うけれど。


「はい、じゃあ席について。いや、席がわからないね。せっかくだから、隣は異性にしようか。よし、左側の人が後ろにズレて、そこに男子が入ろうか。男子も前の席通りに座ってくれ。わかったな?」

男子校から来た先生が話す。

私たちのおじいちゃん先生が職を奪われてしまった。

隣に来たのは、さっきの茶髪の人。

「君、さっきはごめんね。何か言いかけていたのに、俺が遮っちゃって。」

気付いてくれていたんだ。

話し方も穏やかでいい人そうだ。

「いえ、ありがとうございました。おかげさまで、助かりましたわ。」

「大したことじゃないよ。俺は、靭錠岩慈。君の名前は?」

「私は、雅刃鈴花と申します。よろしくお願いします。」

「よろしく。ごめん、敬語苦手なんだ。このままでいい?」

「もちろんですわ。」

ニカッと笑った彼の顔には、怖いという印象はなかった。

もしかしたら、仲良くなれるかもしれないと思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る