16-実験場の戦い①・後編
「実際に見たのは初めてだけど、処刑人ってのはすごいね。単純な技術のはずが、魔法じみてるよ」
相変わらず巨大な軟体動物の頭に乗るフランソワは、大剣の上に乗るシャルルと目を合わせながら笑いかける。
おそらくは魔術的な改造を施されたもの――動く死体を全滅させられているのだが、まだ2種類残っているからかかなり余裕そうだ。
軟体動物の触手を使って、床や機械の上、空中にまで妙な陣を描きながら、まだ先程の対話と同じ態度で雑談を始めていた。
「魔法ってのはお前がやってるようなことだろうが。
死体を動かすのも、よくわからん蛸を操んのも、複数の何かを混ぜ合わせて色々生み出すのもよォ」
「あはは、たしかに立派な魔法かもだ。でも、一応総称して神秘って言うらしいよ。僕の場合はこうやってね……」
直前の殺し合いが嘘だったかのように雑談を続ける2人だったが、もちろん殺し合いが終わってなどいない。
この國で処刑が日常となっているように、ごく自然に錬成陣を完成させると、そのまま処刑人への攻撃準備を始めた。
陣から錬成されてくるのは、何をどうやって錬成したのか、陣を描いた軟体動物と同じような触手だ。
それもただの触手ではなく、それぞれ炎、水、岩、風のようなものを纏っている。
4属性の触手は、さらにツギハギの怪物に突き刺さって錬成陣を描き始め、それらに属性を付与していく。
最初から動く死体よりも大きく、機械によって屈強な肉体を持っていた怪物達は、それぞれの腕や足などに搭載されている武器に炎などを纏わせていた。
「……ふん、まだ大剣はいりそうだなァ!?」
「ガカギギ、グゴゴ……ウゥゥ、ギガァァァッ!!」
大剣から飛び降りてそれを抜くシャルルに、ツギハギの怪物達は搭載された武器を向ける。
銃が搭載されているものは風で狙撃補正や威力補正を、剣が搭載されているものは炎で威力増強などの強化がされ、道中より屈強な怪物が、より強化されて襲いかかってきていた。
しかし、動く死体は俊敏さが強化されて囲っていたところ、それらが強化されているのは頑強さだ。
より筋力を強化され、重装備で、皆フランソワの前で素直に整列して武器を向けている。
そんなもの、処刑人シャルル・アンリ・サンソンの敵ではない。たとえ初見の武器であっても、銃が飛び道具であることだけわかれば対処は容易く、燃えたり岩が纏わりついていても、剣などただデカいだけのものだ。
シャルルは派手に大剣を振り回しながら、その勢いを利用して舞うように前進していく。
「ギャハハハッ!! やけに正確で、高威力だなァ弾丸ってのはよ!! おまけに追跡まですんのかァ!?
床は軽々貫通してやがるし、ふざけた性能だぜ!!」
弾丸は標的との間にある機械を安々と貫き、それでも威力を落とさず床をも貫く。大剣も邪魔な機械をケーキかなにかのように切り裂き、部屋を崩壊させる勢いで敵を狙う。
それらはどれも凄まじい武器で、仮に直撃したらたとえ防刃や防弾の加工が施されているコートでも、ただでは済まないだろう。
とはいえ、処刑人が握っている大剣も道中にいたツギハギの怪物から奪った、中々に質がいいものだ。
そう簡単に壊されることもなく、嫌な音を響かせながらも風の補正で的確に体を狙ってくる弾丸を逸らし、剣や斧などを弾いていく。
最前線で構えていた動く死体は全滅し、それらが隠れていたバリケードもないため、敵の懐に潜り込むのも難しいことでもない。
シャルルはくるくると流れるような美麗な剣舞を披露しながら、一息でツギハギの怪物達に接近してしまった。
「ガカギギ、グゴゴ……ウゥゥ、ギガァァァッ!?」
「テメェらはデケェ!! ナイフじゃあもちろん、ろくに切れやしねぇだろうさ!! が、大剣ならどうなんだろうなァ!?
ギャハハハッ!! 頭を垂れろや、操り人形が!!」
風で軌道を操られている弾丸は、床に当たって貫いても再びシャルルを狙って背中に迫る。
巨大な近接武器は床を切り裂き、部屋を崩壊させていく。
そんな尋常ではない状況でも、処刑人はただ目の前の障害物だけを見つめていた。ずっと流れるように加速を続けていた大剣は、その勢いのままに、シャルルが10人集まったよりも太い怪物の足に炸裂する。
「グッ……!! クソかってぇッ……!!」
「ガカギギ、グゴゴ……ウゥゥ、ギガァァァッ!!」
だが、ツギハギの怪物の良さは頑強さ。
それが道中のものよりも強化されたのが、今目の前に立って道を阻む怪物たちなのだ。
流石に簡単に断ち切ることはできず、大剣はギャリギャリと耳障りな音を響かせながら、半分辺りの位置まで切ったところで止まった。
おまけに、背後から迫るのは風によって誘導されてきた弾丸である。場合によっては剣などの近接武器も向けられるし、そもそも部屋は斬られて崩壊中だ。状況は最悪だった。
「おいおい、こりゃ思ったよりも硬ぇなァ!!
とはいえだ……同じもんがここに、あんだよなァ!!」
実質大剣を失ったシャルルは、それでもめげずに笑う。
きっぱり大剣を諦めて手を離すと、懐からナイフを取り出して振り返った。
狙いは弾丸。自身を狙っているはずのそれを逆に奪うべく、両手のナイフを振るって風を切る。
今まで機械や床をぶち抜いても誘導し続けた風は、弾丸ではなく風自体を狙われたことで揺らぎ、消された。
風を失ってしまえば、弾丸自体にもう威力は残っていない。数発の銃弾はふわふわと下降し、次の瞬間にはシャルルの手の中だ。
「ギャハハハッ!! 弾丸、ゲットだぜ!!」
「それ、銃無しでどうやって使うのさ?」
「はァ? んなもん、テメェが色々と混ぜてた錬金陣を利用すんに決まってんだろうがよ!!」
弾丸を手に取ったシャルルは、そのまま思いっきり屈んでから真上に飛び上がる。弾丸の代わりとばかりに剣や斧などが向けられるが、それをむしろ足場にし、ついでに攻撃を誘導することで化け物達の足を破壊しながら登っていく。
「くっ、おい待て!! 急いで陣を消せ触手っ……!!」
「遅ぇ遅ぇ!! その量の触手操ってて、たった1つの体で飛び回る俺の身体能力に勝てるかよ!! オラァッ!!」
ツギハギの怪物達の体には、炎や風などの属性を付与された時の錬成陣が残っている。シャルルはそれにナイフと弾丸を入れることで、怪物が切れるものに強化してしまった。
おまけに、その行動を止めようとしていた剣などは足を破壊され、ボロボロだ。再生は動く死体だけのものだったのか、その傷が治ることもない。
それらの多くは膝を付き、一部は自分達が崩壊させていた部屋の穴に落ちていく。
「まぁ、ナイフなら別にいいんだよね。
その間隙だらけなのは、わかってたからさ」
「カハッ……!!」
しかし、フランソワはその行動を見抜いていたらしい。
相変わらず雑談でもするように平坦な口調で告げると、数多の触手に襲いかかられたシャルルに笑いかける。
触手は様々な防御効果のあるコートを貫けはしない。
といっても無傷だということではなく、強力な打撃を受けた衝撃で処刑人の口からは血が吹き出していた。
「はは、流石に何度も奪ってりゃ先読みされてるかァ……」
防刃、防弾効果があるのだから、コートは当然衝撃にだってある程度耐性があるだろう。だが、前後左右あらゆる方向から触手が突き刺さってくれば、流石に防ぎきれない。
触手に全身を掴まれてプラプラと無様に揺れている処刑人に、フランソワは小馬鹿にしたように笑いかけた。
「当たり前だろ、バーカ。直接戦闘を見たことはなかったけど、話には聞いてたし強いことはわかってるんだ。
手数はこっちの方が多い。見ることが大事なんでしょ?
ちゃんと冷静に観察して、見切って、隙を狙うさ。
……まぁ、風を切って弾丸を奪われたのはびっくりしたけど」
当然のように手も押さえつけられているシャルルは、まるで抵抗できずに空中を移動させられる。触手は錬金術師の指示通り、処刑人を自身の眼前で持ち上げていた。
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