新たな相棒

終わった……完膚なきまでに負けてしまった、地べたに顔を付けあまりの悔しさに涙する。


あまりの強さ、圧倒的すぎる強さを魅せられてしまっては強くなる……ましては剣聖になるなど唱えるはずもない。


「顔を上げなさい少年」


まるで慈悲を掛けるようなその声に、自然と顔を上げてしまう、そこに在るのは嘲笑でもなんでもない、まるで満足したかのような顔。


「今私はスキルを使った、それだけでも充分一泡吹かせられましたよ」


穏やかな笑みと共に彼のステータスを見せくる。


気安く見せていいのか?ただそのステータスは圧倒的で……それに【加速】、恐らくこれのお陰で抜刀した俺の腹を突いて更には一瞬で首を引っかけられたのだろう。


はっきり言おう、頭可笑おかしいんじゃねぇの?


ステータスも違うが圧倒的に踏んできた場数が違うことが良~く分かるね。


「で、僕はお眼鏡に叶ったってことですかね?ジェントルマン」


「えぇ……むしろ想像を越えて良かった、それに一回か二回私と同じ使い手と戦った事があるでしょう?」


「それじゃあ?」


「特別昇層試験の監視役兼監督、謹んでお受けしましょう」


体のあちこちが痛い、でも、なのに……


「うぉぉぉぉぉぉぉ!」


僕は一つ、目標に近づいたのだ


_______________________________________________

11月8日


「まずは装備を整えなさい」


ジェントルマンと戦った後の早朝、特別昇層試験を受けるため体の体操をしていた頃のことだった


「えっと武器ならもう持ってますけど?」


そう言って腰に添えた二刀の刀を見せる、一つは太刀でもう一つは脇差。この二刀はどちらもお師匠から貰った物でかなり使いふるしてあるしよく手入れもしている相棒だ。


「言っておきますけど、この先その刀では着いていけなくなりますよ」


そう言ったジェントルマンは彼が持つ傘を見せてくる、近くでよく見れば持ち手やハンドル……いや、至るところが未知の素材で作られているが……


「私も昔は愛用していた傘を使っていたのですがね……層を攻略していくと同時に敵は固くなっていく、はっきり言えばダンジョンと使用者の成長にの武器では着いていけないのですよ」


なるほど、確かに俺もこのダンジョンを攻略していく過程でモンスターの強度が上がっている事には気付いていたがそこまでとは。


「愛用する武器は正に宝、だからこそこの意味も分からない迷宮で砕いては行けない」


静かな炎が彼の瞳には宿っていた、きっと彼の武器はこの迷宮で砕けてしまったのだろう。


「分かりましたけど、凡人に武器を作ってくれて迷宮産の素材を取り扱ってる鍛冶師なんていますかね?」


、各地の迷宮が攻略され始めると同時に勢いを上げた職業の一つであり迷宮に潜ることで手に入る鍛冶スキルによって更に強い武器を生産している。


と前読んだ新聞には書かれていた、もちろんこの群馬の森ダンジョンの集会所及び入り口付近に設営されている冒険者用キャンプ地周辺でも商売している鍛冶師を見たことがあるが……


「凡人に売ってくれるかどうかですか……」


今は凡人に対しての差別がかなり酷い、それにの影響もあってか前キャンプ地周辺で商売をしている雑貨屋に迷宮で手に入る治癒薬ヒールハーブを買いに行ったときは通常より遥かに高い値段で売られたものだ


「やはり難儀ですね、称号差別と言うものは

まあ大丈夫でしょう、着いてきてください」


「え?」


「いい人、知ってるんですよ」


◆◆◆


「残念だが無理だね」


「そうですか……」


目の前に居るのは金槌を持った屈強な鍛冶師、このダンジョン所属の探索者達には有名らしく先ほど師匠が話をしていたのだがやはり俺に武器を売るのは無理らしい。


「いいかジェントルマン、武器ってのはちゃんとした強い奴に渡らないと行けない、下手に武器売って死なれたら評判が落ちて困るんだよ……それに例の事もあるし凡人に売るのは無理だ」


俺が凡人だって事は言ってない筈だが何故分かるのか、やっぱり……


「――大体お前は悪い意味で有名なんだよ、足手まといになるだろうに無謀に迷宮を攻略するバカタレの凡人が居るってな」


もはや凡人と言うものは呪いなのだ……俺が現在到達している七層に【凡人】の称号を持つものは俺以外に居ない。


「そう、ですか……では、他を当たるとしましょう、ありがとうございます」


頭を下げるジェントルマン


「別にいいけどよ……居ないと思うぜ?」


居ないと思う、と言うとやはりここには凡人に武器を売るような鍛冶師は居ないと言うことだろう。


「諦めては行けませんよ、他を当たりましょう」


夜営地近くに居る鍛冶師に片っ端から声を掛けて言ったが全員売る気がないようだ、時刻は既に夜の八時頃。


「なるほど……昨日のあなたの苦労が良く分かりました、あなた良く諦めませんでしたね」


「そりゃあ諦めませんよ、てかなんでそんな怖いもの見るような目してんですか?」


「いや、ちょっとメンタルが怖いほどに強いと思いまして……」


「そう言うことはっきり言いますよね、ジェントルマン」


そんな感じで駄弁っているが鍛冶師はしっかり探している、あらかた声を書けてしまったのだが……


「あれは……」


そう言うジェントルマンと俺が見るのはボロいキャンピングカー……そして売られるように値段が付けられた武器の数々


「えーと、行ってみますか?」


「行ってみましょう」


近づいて良く見るがどの武器もなかなかどうして綺麗に、精巧に作られているのが良く分かる……俺は一つ、目についた一刀の刀を手に取る。


「ちょ、ちょっとぉ!盗みは行けませんよぉ!」


キャンピングカーの奥から慌てた様子で出てきたのは体の至るところが炭で汚れたポニーテールの女性、おしゃれとは程遠いタンクトップやグローブを見るに彼女が鍛冶師だろう。


「い、いえ刀を買いに来ただけです」


あわてて事情を説明する俺、そして有名人であるジェントルマンも弁明してくれたお陰で誤解はすぐに解けた。


「なるほど、これから迷宮を攻略するにあたって中層下層の強度に耐えられる刀が欲しいってことでしたか!それなら今お客様が手に取った刀なんて正におすすめですよ!」


俺が刀を買いに来たと知った途端笑顔を咲かせ営業モードに入る女性、そんな彼女に俺は伝える。


「あ、あの……俺、凡人ですけど大丈夫ですかね?」


場が静寂に包まれる……隣で見守っていたジェントルマンは正に目をギョッとさせている。


まあいつかはバレることだ、ならば凡人であることを知っていながら武器を売ってくれる人がいい


さっきから真顔になっていた女性が笑顔に戻り口を開いた。


「いいですよ、そんなこと」


――それに


「あなたの刀は使い込まれていますよね……それにその手も並大抵の努力ではそこまで厚くならない」


俺の手を握って彼女はそう言う


「武器は使用者の相棒です、もしもそれで使用者が死んでしまうことがあれば原因は2つうちどれか……使用者の実力があっていないか武器の品質が悪かったか」


俺の目を見て彼女はまっすぐ言う


「あなたなら、私のをちゃんと使えるでしょう?」


先ほどから見守っていたジェントルマンの安堵の表情が目尻に見える、そして俺自身も……


――その言葉に、少しでも救われた気がしたのだ


「さ、この刀買っちゃいますか?」


俺から離れ今までのような笑顔を見せる彼女に反応する前に目線を下に下げ刀の値段を見る


ひーふーみー……


た、たっけぇ……


「私が払いましょう」


「え、え?」


「なに、先行投資って奴ですよ」


今度返してくださいね?


そう言った彼はお金を鍛冶師の女性に渡すと彼女もそれを受け取りお釣りを渡す、先ほどの刀を鞘に収め俺に渡した。


「太刀紐なら持ってますよね?あ、あと見た感じお客様は二刀流でしょう?」


「は、はいそうです」


「ならこの脇差をサービスしちゃいます!あ、どちらも20層から出る強魔鉄を使ってますから長持ちしますよ!」


そう言った彼女は俺にもう一つ脇差を手渡す


「え、え?さすがに貰いすぎでは?」


「私も先行投資って奴ですよ、ね?」


彼女がジェントルマンに目を合わせると困ったような表情を浮かべ彼も口を開いた。


「まあ貰っておきなさい、お金なら返せばいいだけです」


何故だろう?何故彼らはこんなにも優しくしてくれるのだろうか?


色んな人に否定されるが、こうして応援してくれる人も居たのだと……心が暖まった気がした


「ありがとうございました!」


二人に頭を下げる、きっとジェントルマンとこの女性にはお世話になるだろう。


「ふふっ私は東雲心春です、刀のメンテナンスはいつでもできるからまた来てね」


「はい!」


新たな相棒を腰に添えて、ジェントルマンと場所を後にする。


腰に添えた二刀相棒は自宅で大切に保管しておこうか

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