第22話 side桜餅 久しぶりの再会

タクシーに乗って花岡先輩のマンションにやってきた。


ピンポーン……。

ピンポーン……。


インターホンがむなしく響く。

どうやら、凛々子さんは外出しているようだ。

買い物に行ったのか……?


時計を見ると10時半を回っていた。

晩御飯の買い物にスーパーに行くのも有り得ると思った。

近いスーパーを検索すると、徒歩5分程の場所にスーパー【エス】があるのがわかった。

俺は、急いでそこに向かう。



【エス】についたのは、10時45分。

店内を一通り探してみたけど、凛々子さんは見当たらなかった。

店を出ると……。



「陸斗」


俺を呼ぶ声を見つめるとそこには親友がいた。



「あっ君。久しぶり」

「久しぶりだなーー。9年と8か月だっけ?陸斗の結婚式が最後だよな」

「そうだな。でも、あっ君がここにいるの珍しくない?」


あっ君は、盆や正月になってもここに帰って来る事はない。

そんなあっ君がいるのが不思議だった。



「そうだよな。真空の親父さんが倒れたって連絡があったから」

真優まゆちゃんから?」

「そう。それで、顔見にきたんだ」

「あっ君は、やっぱり今でも真空ちゃんを愛してるんだね」

「当たり前だ!俺の初恋相手なんだからよ。でも、今の嫁さんもちゃんと愛してる」

華子はなこさんだよね。可愛らしい人だったな。結婚式でしか会ってないけど」

「そうだよな!あれから、俺と華子はこっちに来ないしな。華子は、真空を忘れられない俺を丸ごと包んでくれたから。大事にしたいんだ」



久しぶりに会うあっ君は、最後に会った時と何も変わってなくて嬉しかった。


「駅前の【モンブラン】で話さないか?飯でも食いながら」

「いいよ。今日は、外回りで直帰だから」

「あっ、でも。さっき、誰か探してたんじゃないのか?」

「えっ。あっ……。もう、大丈夫だから」

「そっか。ならいいんだけど」

「大丈夫だから、行こう」



親友なのに、凛々子さんの事を話せないのは辛い。

藍子と結婚する時、あっ君は凄く喜んでくれたから話せない。



「なぁーー。陸斗」

「何?」

「下都賀って、売春してるの?」


あっ君の言葉にさっきの映像が流れる。


「わからないな……。卒業以来、会ってないし。どうして?」

「いやーー。浦瀬うらせから聞いたんだよ。先週さ、出張で来てたから会ったんだよな。そん時に言ってたから……」

「そうなんだな。下都賀が売春ね」



浦瀬拓篤うらせたくまは、俺とあっ君の一つ下の後輩だ。

下都賀とは小さい頃から近所に住んでて、俺の初恋をよく協力してくれていた。



「浦瀬が、陸斗に会いたがってたよ。たまには、あいつの所に行ってやってくれよ。藍子ちゃん連れてさ」

「あ、あぁ……」

「花岡先輩、元気してる?」

「うん、元気。元気」

「相変わらず会ってるんだろ?仲良かったもんな」

「うん。俺は、花岡先輩がここにいるからこの街に残ったからね」

「変わらねーーやつだな。花岡先輩をリスペクトしてたもんな」


あっ君は、ニコニコ笑ってる。

俺、あっ君にも凛々子さんが好きだって言えない。

軽蔑されたくないんだ。

後ろめたいのかも知れない。



「あっ、そうだ。下都賀がAVに出てるらしいから浦瀬が知ったんだってさ。売春」

「えっ、AV……?」


さっき蔵前が見せてくれたBlu-rayが頭に過る。



「嫌がって泣いてる顔がバッチリ映ってるらしい。ただ、駅前の【ロザリオ】にしか置いてなかったらしいよ」

「【ロザリオ】って去年潰れたんじゃなかったかな?」

「潰れた、潰れた。あそこ、素人のヤバいAVが出回ってるって噂だったからな。昔から……覚えてる?」

「確か、中学の頃に崎野さきのが借りてきたって兄ちゃんの名前使って」

「そうそう」


蔵前が見せた下都賀の映像と似たようなのを中2の夏にあっ君の家で見た。

って事は、蔵前が引き継いでる商売は昔からあったって事なのか?


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