第20話 sideりりまる レスになった理由

帰宅して、寝る為の準備をする。

さっきは、凄く楽しかった。

リビングに行くと優ちゃんは変わらず床に落ちていた。



「風邪引くよ。優ちゃん」

「うーーん」

「優ちゃん、パジャマ着替えて寝なきゃ駄目だよ」

「あれーー、桜餅は?」

「もう帰っちゃたよ」

「そうか、そうか。悪い事しちゃったな。謝らなきゃな」

「そうだね……」


優ちゃんは、私を抱き締めてくれる。



「まだ、子供諦めたくないな。でも、凛々子が辛いなら。それは違うよな。駄目だよな」

「ごめんね。私……したくないとかそういうのじゃなくて」

「わかってる。無理させたくないから……」

「ちゃんと考えるから。レスも解消するように努力するから……」

「いいって、いいって。気にしなくて……。体の感覚が変わってきたんだろ?更年期に差し掛かったからかなって言ってただろ」

「優ちゃん。朝も起きれなくてごめんね」

「気にするなって、大丈夫だから。じゃあ、明日も早いから寝る。おやすみーー」


優ちゃんは、私の涙を見ないように立ち上がった。

いつからかな?

優ちゃんが、私の泣いてる姿を見なくなったのは……。

悪いのは、私だってわかってる。

【レス】になったのだって……。

だけど、優ちゃんは優しいままで。



「もっと傷つけてくれていいんだよ」


私は、立ち上がってキッチンに行く。

お皿を洗って、キッチンをリセットする。

私のモヤモヤの晴らすやり方だ。


美奈子に会って【セカンドパートナー】って話を聞いた。

桜木君みたいな人いたりするのかな?

本当に更年期みたいな症状が落ち着くなら、この苦い漢方はいらないって事になる。


【恋愛感情】も【肉体関係】もなくていいのなら作ってもいいのかな?

【セカンドパートナー】


キッチンのリセットが終わる頃には、セカンドパートナーについて前向きに考えている自分がいた。

一回行ってみて合わなかったら断ればいいかな。


スマホを取り出した。

メールを見ると桜木君からの【他人行儀】なメッセージが入っている。


「何て帰せばいいのかな……」


私に非があるのはわかっていた。

あの時、泣いたからだ。

泣いたのは、桜木君に対してじゃなかった。

あんな【好き】って言葉をこの先の私が受け止められないとわかっていたから……。

美奈子に誘われた会に参加すれば、巻き込まれていくのがわかる。

そしたら、私。

桜木君を傷つけると思った。

だから、わざと桜木君なんて呼んで。

なかった事にしようとした……。

傷つけちゃったんだよね。

ごめんね、桜木君。



歯を磨いてパジャマに着替えると寝室の扉を開ける。

レスになったあの日から、私達は別々のベッドに寝るようになった。


あれは、37歳の夏。

夏バテなのか、何なのか長引く体調不良に私は悩んでいた。

病院に行っても異常はなくて……。

ずっと、体はダルくて重くて。

自分の体じゃないみたいだった。

何もしなくていいならずっと寝ていたいぐらい毎日しんどくて……。

体調は、良くなったり悪くなったりを繰り返していた。

毎日、騙し騙し生活を続けてて。

少し元気になった頃に、優ちゃんから誘われたのだ。

本当は、ちょっと頑張れば出来た。

だけど、頑張りたくなくて……。

優しいキスをされて、ベッドに倒されて……。

今からって時に……。


「だから、出来ないって言ってるじゃない」


泣きながら叫んだ私を見て、優ちゃんは驚いた顔をしていた。

優ちゃんの為なら、少しぐらい頑張れた。

なのに、あの時の私は自分勝手で。


「ごめんな、凛々子。しんどいの気づいてあげられなくて」


優ちゃんの優しさが胸を締め付けた。

私は、謝れなかった。

それから暫くは腫れ物に触るみたいに優しく扱われて……。

謝らなきゃ、謝らなきゃって思っているうちにシングルベッドが2つ届いた。

気づけば、私と優ちゃんは離れ離れに眠るようになってしまった。

それから、優ちゃんは私が泣きそうになるとサッといなくなるようになって……。

体より心の方が遠くなった気がしてる。

普通に生活してるけど……。

お互いの本心を口にしてない。

このままだと、私達は【熟年離婚】にまっしぐらな気がする。


私達は、お互いの何もかもをわかったフリをしているから駄目なんだよね。

桜木君みたいに気持ちはちゃんと伝えなきゃ。

私は、右側のベッドにいる優ちゃんを見つめる。



「優ちゃん。レスを解消出来るようにするからね。体調もすぐに整えるから……待っててね」



私は、優ちゃんを見つめながら目を閉じた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る