第6話
次の日、私はチュンチュンと鳴く雀の声で目が覚めた。
「はっ⁉レモネードフラッシュ⁉」
「お嬢様、落ち着いてください。ここは公爵邸ですよ」
私の寝言に冷静に対応し、私を落ち着かせたのはメイドのケリー。落ち着いてて、頭がよくて、私が生まれた時から付いてくれている人だ。私が寝起きでしばらくボーッとしている間にケリーが身支度をせっせとしてくれていたのだが、ふと倒れる前のことを思い出す。
「ケリー、私いい夢を見たわ」
「まぁ、どんな?」
ケリーが私の髪を梳かしながらそう聞いてくる。
「イケメンな美少年が私の護衛騎士になる夢」
「まぁ、それは素敵な夢でございますね」
すました顔で私の髪をとかすケリーはいつも通りだ。
その態度で察する。
あぁやっぱり夢だったんだ。
ちょっと残念……かも。
「でもね、その護衛騎士おかしいんだよ?護衛騎士のくせに鎧も制服も着てなくて、フード被ってるの。うちの家紋が入ったマント羽織ってなかったら盗賊って思うくらい」
「まぁ、それはそれは。さぁ身支度は終わりました。私は下がりますね」
「うん、ありがとう」
「何度も申し上げていますが使用人にお礼などいらないのですよ?」
「私が言いたいだけだからいいの。外では言わないから」
「そうですか」
ケリーがほんのり微笑む。
「では、失礼します」
「うん、またねー」
ケリーに手を振って、私はドレッサーの椅子から飛び降りる。することもなくて部屋の中をしばらく歩き回っていたのだが、ふと自分の姿が姿見に写っているのが見えた。
ゆっくりと姿見に近寄ってみればそこには母上と同じ薄い朝焼け色の長い艶のあるウェーブのかかった髪を揺らして、母上似の小さな顔に細い眉毛の可憐な少女がいた。
しかし私には唯一母上に似ていないところがある。
「ここまで似てるなら母上に似たかったな~」
エメラルド色の目は母上のそれよりは少し小さい。親父に似てしまったのだ。母上は絶世の美女だけど、私は上の下といったところだろうか。これなら、母上とガチで瓜二つがよかったかも。それにしても夢の少年、イケメンだったな~。あんなのが私の横にずっといるんでしょ?え?ずっと比べられろって?冗談、冗談。
「いやーあいつが夢で本当に良かったぁ‼」
「夢じゃなくて申し訳ありませんね」
「ヒョッ⁉」
私が突然後ろに現れた彼に驚いて飛び退れば、目の前にあった鏡のことを忘れていたのでまた華麗に鏡が割れる音と共に私の頭は鏡を貫通する。
「ちょ、ちょ⁉あんたどこから⁉」
「私は護衛騎士ですよ?お嬢様の傍にいないほうがおかしいんです。お嬢様の頭は本当に花畑のごとくメルヘンでうらやましいです」
今さりげなく嫌味言われなかった??
まぁ今はそれよりも――。
「本当にきれいな顔よね~」
「お嬢様、話の脈絡がなくて困ります」
私は彼の頭の先からつま先までじっくりと見つめる。
顔以外で肌が見える場所がないのだが、唯一見える顔が美しすぎる。
私は一旦一息ついて彼をもう一度見つめる。
昨日はあまりの美しさに倒れたが、一度見て目が慣れたのか体のどこにも異常はない。
よし、これならこいつの横にいても意識が保てる。
なら……やることは一つ!
「よし、これであんたをクビにできるわね」
「お嬢様、話が破綻しています」
だって嫌でしょ?ただでさえ運命が悲惨なのに、その上に美男子の護衛騎士?
そんなの争いの元になる気しかしない。
貴族なんて昔から甘やかされて育った奴らの巣よ?その上で平民が同じ人間として扱う奴なんて逆に煙たがられる世界でこんなやつ連れ歩いてれば、そいつを売れとか、よこせとか言われるだけじゃない!
美しさは長所と思われがちだけど、この時代では損の方が多い気がする。
まぁ‼私はお母様に似たかったけどね‼(←破綻する主張)
そんなことを考えながらずんずんと小さな歩幅でドアに向かう。
「お嬢様、私はお嬢様のためにこの身をささげる覚悟です。どうかご容赦を」
と私の後を相変わらずの仏頂面で後ろを追いかけてくる姿はとても愛らしい。
私はキュンとなりかけた胸に思いっきり蓋をして、口を引き結び、前だけを向いた。
「ごめん、あんたは悪くないんだけど私の未来のために情が湧く前にクビにさせて」
そうどんなことでも同情してしまったら負け。こっちの弱みを見せてしまえば引き返すことはできないのだ。
私が彼の説得に構わずドアに手をかけようとすると、ふと彼が呟いた。
「――情が湧けばいいのですね」
彼は俯きながらそう告げる。
私は相手が子供ながらにも、その言葉に呆れてしまった。
「そんな簡単に情が湧くわけないでしょ。そんな軽い女だと思ったら大間違い――ってん?」
私がドアに手をかけようとした手が空を切る。
そして――気が付けば私は空中にいた。
「え!?ちょ?」
私が困惑しながら落ちた場所はベッドの上だった。
私が起き上がる暇もなく、彼は私の上にまたがり、その拍子にフードがはらりと取れる。
「情――湧きました?」
烏色の黒髪が後ろでまとめられており、そのまとめられた髪の毛がはらりと私の顔にかかる。
その姿は子供の姿なのにも関わらず、妙に色っぽい。
「私をお嬢様のお傍にいさせてください」
彼は相変わらずぶっきらぼうにそう言いながら、私の頬をなでた。
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