第4話
さてこの家に生まれついて早三ヵ月。
私はある重大な問題を抱えていた。
それは……母のパイ!!
え、そんな引いた目で見ないでおくれよ、別に健全だから……。
そう赤ん坊は何を食べて育つかって、そりゃあ母乳な訳で、それを赤ん坊は吸わなくてはならない訳で……そこにあるのは羞恥心以外の何者でもない。そう、生まれついたときに私の手に触れていたのは紛れもない我が母上のふくよかなお胸だった。
女の子だから良かったようなものの、私が男だったら絶対に色んな意味で気絶していた。
でもその母乳摂取のかいあって私は首が座り、ハイハイすることもどうにかできるようになった。
頭は女子高生そのままなため早く歩けるようになりたいと日々努力しているわけだが、そうするとどうしても他の赤ん坊よりも発達が早いように見えるらしく、親父と母上と使用人たちは天才だと私を褒め立てた。
成長したら失望させることになってしまうのだろうな、すまん将来は政治家や王妃にとか言ってるみんな。私そんなスーパーマンじゃないの。平々凡々な美少女高校生だった前世があるただの赤ん坊なんです。
申し訳ない気持ちもあるが勝手に勘違いしたのはあっちだし……うん、私は悪くない。
「もうちょっと!!もうちょっとよ!!あ〜惜しいわね……あら、まだやるの!!頑張れ!!頑張れ!!」
私は今絶賛母上の応援を受けながら立つ練習をしている。
普通私の世話は乳母がやるものらしいのだが、母上は私のことを溺愛してくれているらしく、よく仕事の合間をぬって、こうやって私との時間を作ってくれている。
いや〜うれしいこった。
そして今日も母上が可愛い。こんな顔整って、子供を溺愛してるって推し要素しかない。
え、あのチョビ髭父上はどうやって母上と結婚したかって??
政略結婚と勘違いするかもだが、恋愛結婚らしい。
しかもかなりロマンチックな伝説付き。
乳母がうっとりしたように父上と母上の社交界上での大恋愛を寝る前の御伽噺代わりに聞かせてくるから覚えてしまった。
乳母さん……中身が私だから良かったようなものの、普通赤ん坊に聞かせるのってかわいい動物の出てくるお伽噺とかじゃないの??その話、確かに大恋愛でロマンチックだけど、そんなドロドロしたもの聞かせていいの??まぁまぁ女の確執だらけだよ??
まぁその話はいつかするとして、私はおぼつかなく、やけにむっちりした足に鞭を打ってなんとか立たせたることに成功した。
私が耐えきれず、倒れそうになれば母上はサッ腕を出して支えてくれる。
「立った!!今立ったわ!!ねぇ今立ったわよね!!」
子供のようにはしゃぎながら乳母に確認する母上。
いや天使……。
それは乳母も思ったのか、多分ニヤけているであろう顔を手で隠しながらコクリと頷いた。
「流石よ!!流石私と旦那様の子供だわ!!もう本当に愛しくて愛しくてずっと抱きしめていたい!!」
そう言って私をギュッと抱きしめてくれる母。
私の前世では、両親は物心ついたときからいなかったからこういう経験はすべてが新鮮だ。
私が母上に抱きしめられていれば、ドアがガチャリと開く。
「なんだかすごく微笑ましい絵面だね、僕も混ぜてくれよ」
チョビ髭親父だ。そういえばもうお昼時、親父も休憩時間に入ったのだろう。
「あらガラス見て、チクチク星人が来ましたよ」
いたずらっぽく笑う母上は親父に見せつけるように私を抱っこし直した。
「チッ、チクチク星人!!?そんなふうに呼ばないでくれよ。生まれたときに嫌がられたの、まぁまぁ気にしてるんだから……ほら、ガラスおいで」
そう言って満面の笑みで私に手を広げてくる父上。
父上のことは嫌いなわけではないのだが、立派な髭をたたえている癖に頬ずりが大好きなために、私は抱っこを拒否しがちだ。
「あうぅ……(すまん、痛いのは嫌だ)」
拒否の答えを示すため、母上の方へそっぽを向き、声を添える。
「ガーン!!!」
「アッハハ!!」
私の反応を見て、親父は膝を付き、母上は貴族婦人らしくなく、大いに笑った。
貴族と聞いていたから冷めきった夫婦関係を想像していたのだがそうでもないらしい。
「キャッキャッ」
赤ん坊というのは気持ちがすぐ表に出てしまう。私の体は勝手に手を叩いて笑っていた。
「あ!!初めて笑った!!」
「はぁ~笑った顔もかわいいな~」
親父と母上が私を覗き込んで目を輝かせている。
赤ん坊って幸せだなぁ、何やっても褒められるし笑うだけでこんなに喜ばれる。
孤児院にいたときは院長を手伝って、捨てられてしまったたくさんの赤ん坊の面倒を見ていただけだっただったから、赤ん坊側になってみるというのは新鮮だし、案外楽しい。
もうずーっとここにいたいな〜。だって最高じゃん、貴族だから将来は約束されてて、この先食いっぱぐれることもない。何か忘れているような気もするが、漫画の悪役令嬢のように悪事をして追い出されないようにしないと。
あー人生勝ち組って素晴らしいな!!
……何か忘れている気がするけど
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