China Blue:Hortensia(チャイナブルー:オルタンシア) ~希少な氣功体術の使い手女子がガチガチの序列主義の学園で序列1位を目指す
あくがりたる
中国編~水色の体術使い:チャイナブルー~
第1話 別離(わかれ)
玄関の扉を開けると母が血塗れで倒れていた。
目は見開いたまま、額に穴が空いてそこから血が流れている。即死だという事はただの女子大生である
あまりの凄惨な光景に、涙も声さえも出ない。ただ身体が震え動悸がするだけだ。
これは現実なのか、カンナの視線は虚空をさ迷い、意識が混濁してきた。
「カンナ……」
そんなカンナの視線と意識を呼び戻したのは、父の声だった。
「お父さん!?」
母の衝撃的な死に様を目の当たりにし、他に意識がいっていなかったカンナは、廊下の奥の壁に寄り掛かって倒れていた父の存在にようやく気が付いた。
父は母とは違い身体中から血を流しているにも関わらず奇跡的にまだ息がある。
満身創痍の身体を引きずりながら、父はカンナのもとへ這って来る。
「動いちゃダメだよ! 血が……」
カンナは母の遺体の側まで這って来た父の身体を支えた。
「いいか、よく聞きなさい、カンナ……」
苦しそうに何かを伝えようとする父の身体を抱き起こし、カンナは首を横に振る。
「喋らないで、話は後で聞くから! 今は救急車を……」
「よせ、俺はもう助からない。“氣”の力で延命しているだけだ。それより、ここから早く離れなさい」
「ダメ、……ダメ! 絶対助ける! お父さんとお母さんを置いて私どこにも行かないから!!」
「頼む、お父さんの頼みを聞いてくれ。カンナ、お前には生きて欲しいんだ」
カンナはようやく涙を流し始めた。
生きていたと思った父も、もう長くはない。そう悟ったのだ。
その辛い現実を受け入れたくはない。
だが、受け入れなければならない。突然やって来た大好きな両親との
「家の金を持って逃げなさい。中国に
「待って、逃げなさいってどういう事? 誰から逃げるの??」
「
「我羅道邪? そいつが、お母さんを殺して、お父さんをこんな目に……?」
「ああそうだ。奴はお前も殺すつもりだぞ……カンナ」
父は口からトロトロと血を吐きながら虚ろな目でカンナを見つめる。
そして、おもむろに左手でそばに倒れている母の髪を結っていた水色のリボンを解くと、それをカンナの左手に掴ませた。
「母さんのリボンを持って行って行きなさい。それと、これを……」
父はそう言うと、母のリボンを託したその左手から、カンナの左手をギュッと握った。同時にリボンを伝って温かい感覚が身体の中を駆け巡る。
「これって……」
「俺の最後の“氣”の力だ。いいか、魯趙子だぞ。必ず、会いに行きなさい。お前を導いてくれる……」
「分かった。言う通りにする。だから……」
「カンナ、愛してるぞ……」
その言葉を最後に、カンナの左手を握っていた父の手は急に血の気が引いたかのように冷たくなった。
父は瞼を閉じ、もう喋らない。
嗚咽を漏らしながら、カンナはゆっくりと父の遺体を床に寝かせた。
ボロボロと涙を流しながら立ち上がる。
***
「澄川カンナだな」
背後から聞いた事のない男の声が自分の名を呼んだ。
振り向いた瞬間、熱い感触が額を貫き、カンナの視界は真っ暗になった。
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