ティータイム
その後、ステラとリリィによって連行されたユータ。
彼は、外の景色が良く見える窓際に座ったステラとその隣に腰かけたリリィのため、備え付けの紅茶を淹れさせられる。
さながら彼は給仕だった。
「なるほどなるほど、つまり君は野次馬根性で事件現場にやって来たはいいものの、探偵でも何でもないと」
「やっぱり犯罪者だったのね」
「ぐっ、なにも言い返せない……」
ティーカップを優雅に持ち、紅茶を飲んだステラはユータに言う。
「……けれど、さっきの推理はとても良かった。まるで、本当に探偵のようだったよ」
「へいへい、本職の方に誉められて嬉しいかぎりです……」
ふと、ふーふーと紅茶に息を吹き掛けていたリリィが言う。
「そういえば……貴方って東洋人みたいな名前だけれど、顔立ちを見る限りはこっちの生まれよね」
「ん? ……あー、えーっと、俺は向こうで生まれたハーフなんだよね」
これもまた嘘だ。
この男はこの世界の両親と大喧嘩ののちに家出、名前を変えて旅をしている真っ最中だったのである。
そして、ユータという名前は、前世の名前を流用しているだけだった。
「……さすがに、手紙くらいは出したほうがいいか?」
ふたりに聞こえぬように、小さく呟く。
「――いつまでも、あると思うな親と金。だからな……」
「さっきからなに一人でブツブツ言ってるのよ。そういうところ、ホントに推理してるときのステラにそっくりだわ」
リリィが言うと、ステラはショックを受けたような顔をした。
「え。ぼくっていつもあんな感じなのかい」
「まあそうね」
ユータは、仲が良さそうに笑い合う二人を見て思ったことを、つい声に出してしまった。
「……そういえば、なんで女子ふたりで旅なんかしてるんだ?」
「フリーランスの探偵なんてこんなものさ」
クールにステラが言う。
これが嘘だと言うことをユータは知っていたのだが、追及することはしなかった。
「そういうものなのか。……で、二人はいつから一緒に旅してるんだ?」
ようやくティーカップに口をつけていたリリィが、ごくりと紅茶を飲み込んでから述べる。
「腐れ縁ね。探偵手帳を取るときの試験でペアを組んだのがステラだったのよ」
「本当は幼馴染なんだけどね」
「ちょっとステラ!?」
リリィが珍しく声を荒げた。
ユータはそこら辺のストーリーはすでに知っていたので、ユータもあまり踏み込もうとは思わない。
「なんか複雑な事情がありそうだな。詳しくは聞かないよ」
「……そう。助かるわ」
リリィは言ってから、ステラに目を向けた。気まずそうに頬をかいたステラが、話題を変えようとする。
「まぁ、事務所もない探偵はひもじいからね。こうやって足で事件を探しにいくのさ。……それに、顔見知りの刑事が増えると何かと便利だしね」
ステラが苦しい探偵家業について語っているのを聞いて――ふと、良いことを思い付いた。
「……わかった。じゃあ、ヴェ=センリの街に君たちの探偵事務所をつくろう。
だから、無免許推理の件は許してくれ」
ステラとリリィは、ユータがいきなり言い出したことに驚く。
「今なら、俺のコレクションしている絵画もつ少しばかり譲ろう。……お金に変えようとは思わないが、資産にはなるだろう」
勢いで言いつつも、この世界に着てから集め続けている趣味の品を手放すのは、さすがにユータも
――娯楽の少ないこの世界でのユータの唯一の娯楽が、前世からの趣味である絵画鑑賞なのだ。
「ぐっ、けど――」
「勝手に交換条件だして勝手に渋ってる……!」
「たぶん馬鹿なのよ」
呆れたジト目をこちらに向けながら、組んでいた脚を組み換えるリリィ。
「というか、貴方がそんなに金銭を持っているようには思えないのだけど。……どちらかと言えば、どっかの貴族の放蕩息子?」
「……うん。服はとても上質に見えるけど、ぼくも同じ考えだよ」
「悪いほうの信頼だけはあるな……」
ユータはふたりの怪しんでいる言葉に、フフンと鼻を高くしながら言った。
「――こう見えて俺、とある商会の会長をやってるんだぜ」
「「――ええええぇぇぇ!?」」
「……え。そんな驚く?」
実際は、前世の知識で商売をしているだけなのだが――その知識チートをステラとリリィが知る術はなかった。
しかし、家出の旅のあいだに商売をしたところ、トントン拍子に成功してしまい今に至る――なんて事情を、ユータはわざわざ説明しようとは思わなかった。
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