第13章 そのイベント、ついに最終局面ですか?

第72話 そのピンチ、本当に強敵が駆けつけてくれますか?

 ――世界は一変した


 ネーヴェの魔力を追ってウェルシェ達は今ではほとんど使用されていない旧校庭へと向かっていた。が、その途中でそれは起きた。


 爆発的な魔力が津波のように押し寄せ、ウェルシェ達は一瞬にして飲み込まれたのだ。


 すぐさまウェルシェ達は自分の身を魔力で包んで耐魔レジストした。しかし、膨大な魔力の奔流が過ぎ去った後に目の前に広がった光景に言葉を失った。


「何コレッ!?」


 ウェルシェの悲鳴にも似た声が辺りに響く。景観に大きな変化はなかったが、夕陽に燃える赤い景色が白と灰色の世界へと変わっていたのだ。


「これは……雪?」


 灰色の空から白い粒子が舞い降りてきた。それをイーリヤが手で受けると一瞬で溶けて水になる。周囲を見回せば、しんしんと雪が降り続けていた。


「うっしゃあ、イベントどーり!」


 アイリスは満面の笑顔で歓喜した。


「バカ! これが喜べる状況?」


 お気楽なアイリスの発言にイーリヤは激昂した。ウェルシェもあまりの事態に呆気に取られている。ウェルシェの隣にいた女生徒が、先程までと全く同じポーズのまま静止していた。


「これは……凍っている?」


 のように固まったその女生徒にウェルシェはそっと触れた。それは氷のように冷たい。周囲を見回せばウェルシェ達以外みんな祭りを楽しんでいる最中の状態のまま。微動だにしない彼らだけ、まるで時が止まっているかのよう。


「耐魔に失敗したらこうなるのね」


 周囲の状況にイーリヤは眉を顰めた。きっと王都全体が同じ有り様なのだろう。もう魔力災害カタストロフと呼ぶべき大惨事だ。


「みんな氷漬けにされたのかしら?」

「耐魔した感じからの推測ですが、生徒の1割くらいは無事だと思いますわ」


 イーリヤの疑問にウェルシェは答えたが、無事な者がいるからと喜べる状況ではない。むしろ、この惨状にイーリヤは気持ちが沈む。


「これが全部ネーヴェの仕業なの?」

「そうよ、これが雪薔薇の女王が生み出した世界『氷雪の牢獄コキュートス』よ」


 イベントスチルで見たわ、とアイリスがほくそ笑む。


「あんたねぇ、みんながこんな状態なのに、なに嬉しそうにしてんの!」

「別に誰も死んじゃいないわ。イベントをクリアさえすれば元通りになるわよ」

「本当に大丈夫なんでしょうね?」

「私はこのイベント何回もクリアしてんのよ。大丈夫に決まってんでしょ」


 自信満々のアイリスに却ってイーリヤは不安を覚えた。だが、今はこの状況を解決するのが先決である。


「とにかく今はネーヴェを止めないと」

「そうね、オーウェン達もそろそろネーヴェの元に辿り着くでしょうから、早く行かないとイベントバトルに遅れちゃう」


 三人は急ぎ氷雪の牢獄を作り出した魔力の発生源を目指した。それは最初にウェルシェが目指していた旧校庭。


「トレヴィル!?」


 校舎側から抜けて校庭を見下ろす土手に出ると、倒れているトレヴィルを発見した。


「大丈夫?」

「うっ、うう……君達……か」


 アイリスが治癒の魔術を施し助け起こす。


「雪薔薇の女王はどこ?」

「彼女は……」


 トレヴィルが指で示したのは校庭の中央。そこに白い美女が無表情でポツンと一人で立ち尽くしているのが目に入った。


「俺のせいでネーヴェが……早く彼女を正気に戻さないと」

「大丈夫よ、私に任せて」


 アイリスはトレヴィルを支えながら左手に嵌められた指輪を掲げた。


「私には雪薔薇の指輪フローゼンエンゲージがあるわ」

「この指輪は?」

「これは雪薔薇の女王の力を制御する為のものよ」

「では、その指輪をネーヴェに渡せばいいのか?」

「それだけじゃダメ。これは雪薔薇の女王が暴走した時にレリーフが雪薔薇へと変貌してしまっているの。このまま渡したんじゃ却って手がつけられなくなるわ」


 トリスタンに裏切られ力を暴走させたネーヴェは、胸の赤い薔薇ともども巨大な力を制御する『約束の薔薇プロメスローゼ』を白に染めてしまった。今の指輪はネーヴェの氷雪の力を増長させるだけの存在となっている。


「だから、雪薔薇の女王の前で指輪の薔薇を赤に戻せば彼女を元の優しい女王に戻せるわ」


 アイリスはトレヴィルの両肩を掴んだ。


「その為には私が彼女の傍までいかないといけないの。だから、トレヴィルの力を貸して!」

「ネーヴェを助けられるなら俺は幾らでも力になる……だけど……」


 トレヴィルがネーヴェへと視線を戻す。アイリス達もそれに釣られて顔を校庭へと向けた。


「何かしら?」

「あら、可愛い雪だるまさんですわね」


 イーリヤとウェルシェは不思議な光景に首を傾げた。ネーヴェの周囲には雪だるまのような白い塊が無数に鎮座していたのだ。


氷雪の衛兵スノーガードね」

「あいつら可愛い見た目でけっこう強いんだ。俺も近づこうとしたんだが、あいつらに阻まれてしまって……」


 悔しそうにトレヴィルが顔を歪めた。


「諦めるな強敵ともよ!」


 その時、背後から突然声をかけられ四人が振り返った。


「お前達は!?」


 トレヴィルはそこにいた者達を見て目を丸くした。


「貴様には俺達がついている!」


 そこには横一列に並ぶ五人の男達がいた。

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