第60話 そのURカード、トレーディングして大丈夫ですか?
時を遡ること一時間前――
ウェルシェはトレヴィル主催の模擬店へと殴り込みをかけた。
「な、なんだお前達は!?」
「トレヴィル殿下の取り立てに参りましたの」
現れた二人と対峙したトレヴィルと愉快な強敵達は戸惑った。
筋骨隆々な自分達と対峙したのが、見た目は儚き妖精姫と見た目は眼鏡の似合う知的な美女なのだから無理もない。もっとも中身は真っ黒黒介な腹黒令嬢と中身は全てを拳で解決する脳筋侍女なのだが。
「負債はずばりトレヴィル殿下そのものですわ」
腕を組んで命令するウェルシェにトレヴィルの強敵達は色めき立つ。
「大人しくトレヴィル殿下をお渡しなさいませ」
「バカにするな!」
「我らの友情を甘く見るなよ」
「やすやすと仲間を引き渡すものか」
「トレヴィルは俺達が守る!」
「み、みんな……」
努力と根性で結ばれた
「ウェルシェ君、俺は
「そうだ、我が
「「「おおよ!」」」
「マルトニア学園名物『
暑っ苦しく燃えるトレヴィルと愉快な
「ふっ、無駄な抵抗を」
もはや、どちらが悪役か分からない。
「いいでしょう、ならば全員まとめて相手をしてさしあげますわ……カミラさんが」
「えっ!?」
カミラの恐ろしさを知っているトレヴィルが固まる。
「か、彼女が?」
「ええ、もちろん」
にっこり笑うウェルシェの顔がとっても黒かった……
――そして、五十七秒後
闘技場は筋肉ダルマ達で死屍累々状態。その彼らを背に庇うようにトレヴィルがカミラに向って土下座をしていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、何でも言う事を聞きますからどうかこれ以上は
友達の為に恥も外聞も捨てて土下座するトレヴィルを見下ろし、カミラが眼鏡をクイッと持ち上げた。その眼鏡の奥の琥珀色の瞳には冷たく蔑むような光が見える。
「全く十数人でかかってきて一分も持たないとは情け無い」
「くッ、レディが強いのは知っていたが予想以上だった」
「あなた方の筋肉は見てくれだけですか」
「面目次第もない」
トレヴィルががっくり
「お~ほっほっほっ、うちのカミラさん最強ですから」
かくしてトレヴィルは有無を言わさず強制連行されたのだった――
「と言うわけで、エーリック様とトレヴィル殿下をトレードですわ」
「王子をトレードって……トレーディングカードじゃないんだから」
ウェルシェの非常識な行動にさすがのアイリスもドン引きだ。
「ですが、アイリス様としてはトレヴィル殿下は必要なカードなのではありませんの?」
「――ッ!?」
「分かっておりますわよ……イベント『雪薔薇の女王』」
「あんたどうして?」
実際にはまだイベントの詳細は分かっていない。だが、イーリヤからの話やアイリスの行動などから分析して、トレヴィルがアイリスにとって重要なカードである事は推測できた。
「さあさあ、エーリック様とトレヴィル殿下、どちらを選びますの?」
「くッ!」
エーリックも欲しいが『雪薔薇の女王』クリアの為にはトレヴィルがいた方が都合が良い。苦渋の選択に懊悩するアイリスだったが、ウェルシェにはもう彼女の答えは分かっている。
悩んだ末にアイリスはトレヴィルの裾を摘まんだ。
「トレヴィル……キミに決めた!」
「は~い、お買い上げありがとうございま~す」
ウェルシェは鎖をアイリスに引き渡すとエーリックを引き抜いて店を出た。
「あ、あれ大丈夫なの?」
「ちゃんと話をつけておりますので問題ありませんわ」
隣国の王子の扱いにエーリックは心配になったが、ウェルシェは全く気にした風もない。
(これでエーリック様と文化祭デート♪)
それよりもエーリックとの時間が何よりも大事なのだ。ウェルシェはあっちあっちとエーリックの腕を引きながら模擬店を回る。
「まあいいか」
そんな鼻歌でも歌うように機嫌が良いウェルシェにエーリックも自然と表情が綻んだ。
「次はあちらの店へ行きますわ」
「ちょっと待ってよ」
恋人に引っ張り回されながらもエーリックはどこか幸せそうだ。そんな様子にウェルシェは自分の作戦が上手くいったとほくそ笑む。
(それに、トレヴィル殿下がイベントに重要な要素となるなら、これでアイリス様のアシストができたって事ですもの)
まだアイリスの狙いを完全に把握はできていないが、これでオーウェンの廃嫡回避の可能性が高くなったと考えられる。
(まさに一石二鳥の見事な作戦だったわ)
だがウェルシェは知らない。この行動によって強制的にフラグが立てられてしまった事を。それが
かくして全てのベクトルは
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