第51話 その隣国の王子、もしかして塾生ですか?
「……と言うわけで、彼は今までの行いを反省して、女の子達にかけた暗示も解いたんだ」
「それは……ずいぶん思い切られましたわね」
ウェルシェは極端なトレヴィルに少し呆れた。
高貴なる者は付け入る隙を見せてはならない。何故なら彼らの言動のツケを払うのは国民であり領民なのであるから。正直は庶民の間では美徳だが、王侯貴族にとって悪となりうる。簡単に自分の罪を認めるものではない。
「今じゃ性格が180°変わっちゃって、真実の愛だの真実の友情だのと熱っ苦しくなっちゃったんだ」
「それは……トレヴィル殿下もずいぶんお変わりになられましたのですね」
「変わりすぎだよ」
僅か数日でトレヴィルの周囲から見目麗しき令嬢達の姿は消え、毎日ガチムキ系男子と真の友情について語り合っているとか。
「僕も危うく
「……エーリック様、お願いですからお仲間にはならないでくださいましね」
ウェルシェの天使な婚約者が強敵と書いてともと呼ぶ系の学ランを着た熱血ガチムキ男子になられてはたまらない。名前を
「それにしてもトレヴィル殿下を圧倒する侍女ですか?」
「それは僕も疑問に感じたんだ」
トレヴィルはかなり強い。それは戦ったエーリックが良く知っている。だいたい剣武魔闘祭で優勝する実力なのだから弱いはずもない。
「トレヴィルの話だと眼鏡をかけた黒髪の美しい侍女だったらしい。琥珀色の瞳に射竦められると恐怖で動けなくなったんだって。あっ、それから笑顔は綺麗だったけど迫力があったって言ってたよ」
その特徴にウェルシェがバッと後ろの侍女を振り返る。そう言えばこの侍女トレヴィルをシメたとか何とか。こいつホントにやってやがったよ。
「カミラ!?」
「世の中には恐ろしい侍女がいたものですね」
咎めるようなウェルシェの視線にカミラは顔色一つ変えずシレッとしている。
「あはは、確かに特徴が一致するけど彼女は違うでしょ。だって、トレヴィルは笑顔って言ってたんだよ」
エーリックの前ではいつも仏頂面のカミラさん、ウェルシェと二人だとけっこう顔が崩れる。単にウェルシェとエーリックのやり取りに笑わないようしかめっ面になってるだけでだった。
「あっ、いえ、カミラは別にいつも無表情なわけでは……って、カミラ逃げない!」
「やあ、エーリックにウェルシェ」
サッと気配を消してカミラが姿を隠したのと同時に聞き覚えのある声をかけられた。途端エーリックがウェルシェの影に隠れた。
「こ、これはトレヴィル殿下、ご機嫌ようですわ」
果たして現れたのは黒髪、黒目のイケメン貴公子トレヴィルだった。エーリックから聞いてはいたが、確かに前と違ってとても爽やかな笑顔だ。
一瞬ウェルシェは誰だお前!?と叫びそうになったほど。
「今ここに眼鏡をかけた黒髪の美しい侍女がいなかったかい?」
「さ、さあ、ここには私とエーリック様しかおりませんわ」
さすがのウェルシェもタラリと汗を流した。自分の侍女が他国の王子を恫喝したなど知られたら非常に拙い。ウェルシェはシラを切り通す事に決めた。
「ぼ、僕は絶対『強敵』とかにはならないからね」
エーリックがウェルシェの背後から顔を出す。毎日勧誘に来るトレヴィルにエーリックはすっかり怯えてしまっていた。気持ちは分かるが婚約者を盾にする姿は情け無い。
「安心したまえ、今日は別件だよ」
パチンッとトレヴィルが指を鳴らすと、どこからともなく彼の背後にズラッとガチムキ男子生徒が並ぶ。何故か全員ポージングして白い歯をキラリと光らせる。
「な、何ですのこれは!?」
「全員トレヴィルの
あの中に筋肉隆々になったエーリックが混ざってポージングして歯をキラッ……
ウェルシェそんなエル君だんこきょひ!
ウェルシェは間に入ってエーリックを守るように両手を広げた。
「そんな警戒しないでくれ。君にはもうちょっかいはかけない」
エーリックの勧誘もまた後日ね、とバチンとエーリックにウィンクするトレヴィル。他人の話を聞かないところは前と同じようだ。
悪気が無い分よけいに質が悪い。ある意味前以上の強敵となって帰ってきたようだ。
「今日は来月の出し物の件で来たんだ」
「来月のと言うと……文化祭でございますか?」
「そう、その
「は?」
何やら聞き慣れない言葉にウェルシェは思考が一瞬フリーズした。
「え、えーと、真流?……刎?……何ですの?」
「
いや、だろ?と言われても何だそれは?
何やら物騒な単語が含まれているような……刎刈祭って首を刈り取る祭か?
「来月はマルトニア文化祭はありますが……」
「そう、そこで俺と
「それは……楽しそうでございますね」
「ああ、仲間と共に一つの事に打ち込む……これぞ青春って感じだよな」
屈託なく笑うトレヴィルは本当に楽しそうだ。
「それで、エーリック様にどのような御用なのでございますか?」
すっかり怯えて自分の背中から出ないエーリックの代わりにウェルシェが恐る恐る尋ねる。
「エーリックとウェルシェにも手伝って欲しいんだ」
「お店の準備をでございますか?」
「いや、準備は我々がするよ」
仲間と準備する過程もまた青春だよねと同意を求められ、引きつった笑いを浮かべてウェルシェは曖昧に頷いた。
「君達には選手として出て欲しいんだ」
「選手?」
「そう、俺達はお客参加型の出し物をするつもりなんだ」
ニヤッとトレヴィルと背後のポージング男子生徒達が口角を吊り上げた。
「俺達がやるのは『
歯をキラッとさせてトレヴィルがポージングしながら後ろの男子達と『だ!』とハモる。
「こ、殺死腕?」
「今年から魔流斗贋亜名物となる競技さ」
いったい何だその競技は?
「当然、一緒に青春してくれるよな?」
とっても爽やかな良い笑顔でトレヴィルが了承を求めてくる。ウェルシェとエーリックは顔を見合わせて頷くと揃ってとっても良い笑顔で答えた。
「絶対イヤです」
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