第5章 そのお祭り、またまた開催ですか?

第24話 その学園祭、いよいよ開幕ですか?

 その日、マルトニア王国の王都は晴天だった。


 ――ドンッ!

  ――ドドンッ!


 青々と鮮明な空に向けて、マルトニア学園から花火が上がる。


 正門から続々と入場する大勢の人々と入園を待ち列を成す馬車。そのほとんどが学園の生徒の保護者か国の高官達である。学園内は各所で歓声が上がり、異様な盛り上がりを見せていた。


 今日は年に一度の祭典『剣武魔闘祭』の初日――


 校舎や校庭などに設営された各会場では様々な競技の予選が現在進行形で行われている。


 武闘部門の主戦場である円形闘技場も観客席は満員御礼。何分にも今は花形の剣闘の部予選。出場選手の家族だけではなく騎士団関係者や軍関係者も視察に来ているのだ。


 ――キンッキンッ!


 今もちょうど第一予選の決勝戦が始まっており、闘技場で剣を撃ち合う二人の選手に観客席から熱い視線が送られていた。


 ――キンッ!

 ――キンッキンッキンッ!


 数合剣を交えた二人が仕切り直しとばかりにいったん距離を取った。体躯に優れた赤髪の少年が大剣を正眼に構え、対する金髪の少年は身体を斜に構え剣を半身に隠す。


「たとえ殿下相手でも手加減はしない!」

「……」


 赤髪の少年が大きく吼える。だが、金髪の少年は静かに相手を観察していた。


(去年より膂力パワー剣速スピードも上がってはいるとは思う)


 金髪の少年は赤髪の少年クラインの力量を冷静に測っていた。


(努力の跡はみえるんだ……だけど、クライン先輩ぜんぜん成長していないんだな)


 確かにクラインの剣は重く速い。だが、それだけだ。真っ直ぐ打ち込むだけで何も変わっていない。剣筋に虚実が無く予備動作が大きすぎて見え見えなのだ。


「てりゃあ!」


 今も剣を振り上げ一直線に走って来た。これではテレフォンパンチと変わらない。


(この人は三年の間いったい何を学んできたんだろう?)


 金髪の少年は呆れた。


 いくら剣速が増しても簡単にいなせるし、どんなに剣が重くなっても当たらないのだから意味は無い。


(剣魔祭に向けて何やら兄上達と秘密特訓をしていたって聞いてたから、最初は誘いなのかとも思ったけど……)


 どうもクラインは真正面から剣をぶつけ合い力比べをするのが正々堂々とした騎士の戦いと勘違いしているらしい。


 お互い正直に斬り結べば力のみの勝負になるのは必定。だが、一定以上の技量があれば実戦で馬鹿正直に相手の土俵で戦う者はいない。


(これはもう様子見は必要ないかな?)


 金髪の少年は慎重に力量を測っていたのだが、クラインが去年とさして変化が無いと分かると勝負に出る決心を固めた。


「てぃやぁあ!」


 クラインが真っ直ぐ振り下ろす剣を金髪の少年は己の剣で迎え撃つ。と見せて僅かに横へと流した。


「うわっとっとっとッ!?――ぐぁッ!!」


 勢いを殺せずクラインは大剣を床へ打ちつけ、その衝撃が手に伝わり呻き声を漏らした。


「たあ!」

「ちっ!」


 その隙を突いて金髪の少年が短い掛け声と共に剣を振るう。クラインは慌てて剣で受けたが、無理な体勢だった為よろめいてしまった。


「せい!」


 金髪の少年はその隙を見逃さず、すかさず剣を繰り出し畳み掛ける。


 その剣に派手さは無い。

 一撃一撃に重さも無い。


 とても小さく細かい連撃であった。だが、剣筋は素早く鋭く、隙がほとんど無い。クラインは受けるのが精いっぱいで、反撃の糸口が見い出せずジリジリと焦り始めた。


 だいたい、クラインの剣は大きすぎるのだ。予選決勝までは重量級の初撃で相手をねじ伏せてきたが、対戦レベルが上がるとそんな大味な戦法が通用するはずもない。


 今のように攻められると逆に大剣に振り回され防戦一方となってしまう。もはやジリ貧のクラインに勝機は無かった。


 ――どうせ負けるのなら!


 守りに徹する事に耐えられなくなったクラインは思い切って勝負に出た。


「でいやぁあ!!」


 大剣の腹を盾替わりにして、クラインは踏み込んだ。そのまま金髪の少年を押し潰そうという腹積もりだった。


「うわっとっとっと」


 しかし、金髪の少年は素早くかわし、クラインの足を引っ掛けた。クラインはたたらを踏んでズテンっと転ぶ。


「くそ!」


 慌ててクラインは起き上がろうとした。が、その時には金髪の少年が剣先をクラインの鼻先に突きつけていた。


「勝者エーリック・マルトニア!」


 そして、主審が金髪の少年の勝利を宣言したのだった。

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