第3章 その修学旅行、本当にアオハルですか?

第14話 その修学旅行、本当に学んでいるんですか?


 考古学の教師に引率されて二十数名程の生徒が遺跡の中を進む。


「この遺跡はロゼンヴァイス王朝時代のもので、当時の王城跡ではないかと言われており……」


 少しずつ暑くなってきた初夏。


 マルトニア学園の二年生は修学旅行で遺跡の街ルインズへとやって来ていた。


「授業でもやったが、古代ロゼンヴァイス王国は現在のマルトニア王国から東隣のトリナ王国の辺りまで版図を広げていた大国で……」


 準特別クラスの初日は遺跡見学と歴史の講義。教諭の説明を聞く生徒達の中にエーリックの姿があった。


「修学旅行で授業もないわよねぇ」

「……」

「そうだリッ君、二人で抜け出して遺跡の中を探検しない?」

「……」


 不本意ながら横からちょっかいをかけるアイリスの存在もあったが。


(ああ、ウェルシェと一緒だったら良かったのに)


 だがしかし、残念ながら彼の愛しいウェルシェはここにはいなかった。


 マルトニア学園の修学旅行はクラス単位の団体行動で行う。ウェルシェが所属する特別クラスは今頃ビーチでバカンスのはずだ。


 明日の準特クラスの予定は同じくビーチなのだが、逆にウェルシェ達は入れ替わりで遺跡へとやって来る。つまり、修学旅行中は完全なるすれ違いなのだ。


(くっ、ウェルシェの水着が見たかったのに!)


 なんで自分はウェルシェと同じクラスではないのだろう。


 もっと頑張ればウェルシェの水着姿を拝めたのにッ!――今が一番特別クラスに入れなかった事を悔やむエロリックだった。


(せめて夜だけでも会いに行ければいいんだけど)


 修学旅行中の宿泊施設はルインズにある宮殿である。そこに全ての生徒が宿泊する事になっていた。


 だが、何分にもみな貴族子弟。男女七歳にして席を同じゅうせず。男女別完全隔離であり、学園教師陣が夜通し見回りをして「悪い子はいねぇがぁ?」と目を光らせるのが伝統である。


(実力行使はやるだけムダ)


 その防御網は鉄壁。過去に幾人もの若人わこうどがアオハルを求めて挑み散っていったと聞く。そう、誰一人として教師陣による防衛線の突破に成功した者はいないのである。


(それなら王族の権威を使って――)


 それでも毎年、あの手この手で教師陣に挑む不埒な生徒は後を絶たないらしい。中には爵位や権力親の威光をちらつかせた生徒もいたようだ。


(――もダメなんだよなぁ)


 だが、絶対に阻止しなければならない、王権を行使されても絶対阻止!――そう意気込む教師達の鋼の意思と鉄の結束力は固い。親御さんから大切なお子様をお預かりしているのだから。


 見回りの者達が巻いている『不純異性交遊ダメ絶対』『リア充滅ぶべし』『アオハル許すまじ』『俺だって青春したかった』などのハチマキやタスキからも、彼ら教師陣の本気度が窺えるというもの。


 決して彼らが若いカップルに対しひがんでいるからではない。


(なんとかして忍び込めないものかなぁ?)


 はっきり言ってエーリックは青春したいのだ。

 ウェルシェとイチャイチャしまくりたいのだ。


(それに夜のデートならいいムードになりそう……もしかしてハグできちゃったり……そしたらまたウェルシェの柔らかい胸が……ぐふっ、ぐふふっ)


 内心で不気味な笑いをしながら妄想の膨らむエロリックだった。


「ねぇねぇ、リッ君ってばぁ」


 そんな幸せ卑猥な妄想の住人になっていたエーリックだったが、腕を揺すられ現実の世界へと引き戻された。


 気がつけばエーリックの腕にアイリスが絡みついている。


「ちょっ、離してくれ!」


 慌ててアイリスを引き剥がしたが、それが却って周囲の注目を集めてしまった。


「そこ、講義中にイチャイチャするな!」


 すかさず(ひがみ根性のある)教師から叱責が飛び、周りの生徒たちから冷ややかな視線が向けられる。


「てへっ、怒られちゃった」


 だが、アイリスに堪えた様子もなく、ぺろっと舌を出し頭をコツンとして笑う。


(テヘペロじゃねぇよ!)


 イラッとして舌打ちしたくなったが、エーリックはかろうじて堪えた。これでまたアイリスとの仲を疑われるような噂が流れるのかと思うとエーリックの気分はますます沈んでいく。


(ただでさえ最近はウェルシェとぜんぜん会えてないのにぃ!)


 二年生に進級して三ヶ月、エーリックはウェルシェの姿を数える程しか見ていない。


(クラスが違っても一年の時はもっと頻繁に会えてたのになぁ)


 どうにもすれ違いが多く学園で一緒に過ごせていない。ならば屋敷を訪問しようかとも考えたが、仲良くなったイーリヤが頻繁にウェルシェのところへ遊びに来ておりタイミングを逸していた。


 さすがに女性だけの中へ無遠慮に突入する勇気はエーリックにない。そのせいで、エーリックはウェルシェとの逢瀬を断念せざるを得なかったのだ。


 だが、一日一回はウェルシェの顔を見たいエーリックにとって、この苦行は耐え難いものがある。


(圧倒的にウェル成分シェいぶんが足りないよぉ)

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