最終章 あなたのお嫁さんになりたいです!
第63話 その案件、ついに最終局面ですか?
「……そう、やっと
ウェルシェの表現にレーキが苦笑いした。なんせ、ウェルシェの言う餌とは自分自身なのだから。
「獲物に対して餌があまりに豪華すぎてもったいない気はしますが」
「ずいぶん贅沢な外道よね」
「あまり笑える状況ではありません」
二人のやり取りにジョウジはため息を漏らす。
「何かまずい事でも?」
「ええ、ケヴィンの所在が掴めていないのですよ」
「どういう事?」
辻褄の合わない話にウェルシェは眉を顰めた。
「さっきはケヴィン様が動いたって……まさか、尾行がバレたの?」
それでケヴィンが途中で尾行をまいたのだろか?
「そうではなく……実はケヴィンが屋敷を出たところを誰も見ていないのです」
「見てない?」
そうなるとケヴィンはまだ屋敷にいるはずだが、ジョウジはさっきケヴィンが動いたと言ったではないか。さらに不可解になり、ウェルシェはいよいよ混乱した。
「屋敷を見張っていた者達に問い合わせたのですが、彼らはケヴィンが外出する姿を見ていないそうなのです」
「ならケヴィン様はまだ屋敷にいるのではないの?」
それなのにケヴィンが動いたとはいったい?
「それが……学園でケヴィンを見かけた者がいるのです」
「本当に?……見間違いではなくて?」
「その者も最初はケヴィンと思わなかったそうなのです」
その目撃者はハンス・バウワア――ウェルシェの傘下に入ったレーキ達と同じくオーウェンに干された元側近である
ハンスは学園にいるセギュル家の手が、学園に出入りしている業者の服を纏った男と接触している現場にたまたま居合わせたらしい。
それだけなら彼も特に気にも留めなかっただろう。だが、その業者服の人物があまりに不審だった。
ボサボサの黒髪で顔は痩せこけ鋭く、目つきがギョロリとして異様な光を放っていた。貴族の学園に出入りするにしては、あまりにも人相が悪すぎる。
「……よく見れば特徴的な黒髪にアメジストの瞳、極めつけはケヴィンのトレードマークの泣きぼくろまであって……ケヴィンと気がついたハンスは、別人の如く変わり果てた姿にギョッとしたそうです」
洒落者のケヴィンとは掛け離れすぎて、初見では彼とは分からなかったらしい。
「ケヴィン様は業者に
「おそらくセギュル家と取り引きのある商人が力添えしたのでしょう」
姿を
「もしかして、張り込みが
そうなるとセギュル家で見張りをしている者達の安否が気づかわれる。
「仲間達は全員無事ですのでご安心ください」
「おそらく学園に潜入するための偽装を屋敷で行っただけでしょう」
もしくは王妃達に監視されている可能性を危惧しての事か……ケヴィンやケイトにそこまで考えを巡らせる思慮はないだろうから、取り引き相手の商人が入れ知恵をしたのかもしれない。
「ですが、万が一もあり得ます。念のために屋敷を見張らせている方々は引き上げさせてください」
「我らへのご配慮痛み入りますが、ご懸念には及びません」
「学園にケヴィンが来たとの情報が入った段階で引き上げを命じております」
さすが有能な
「ですが一つ解せません」
彼らの話は理解できたが、不可解な点がまだ残っている。
「学園でケヴィン様の姿を目撃しているのに、どうして所在が分からないの?」
「ケヴィンを見つけたのは本当に偶然でして、その場にいたのはハンス一人だけだったのです――」
彼は尾行するか仲間に連絡を取るか、どちらを優先するかに迷ったらしい。
尾行をすればケヴィンの所在や企みを知る事ができるかもしれない。それに、仲間へケヴィンの来訪を知らせに行けばケヴィンの動向を見失ってしまうだろう。
ハンスは迷いに迷ったが、けっきょく彼は仲間との情報共有を優先したらしい。
「申し訳ございません、我らの手落ちです」
「いいえ、ハンス様はとても良い状況判断をされたわ」
尾行をすれば多くの情報を入手できたかもしれない。だが、仲間への連絡が遅くなってしまう。場合によっては手遅れとなる可能性もある。
最悪のケースは尾行がバレて捕まる事だ。そうなれば、ウェルシェ達はケヴィンの到来を知らずに警戒が薄い状態であっただろうし、数少ない同志を失っていたかもしれない。
ウェルシェに聞かされた想定にジョウジは眉を寄せた。
「失う……ケヴィンがそこまでするでしょうか?」
いくらなんでも同じ学園に通った生徒を害するだろうか?
「セギュル夫人に
「……そうですね、あいつに常識はありませんでした」
「風貌からも既に常軌を逸した雰囲気があったそうですしね」
「そう……だから、ハンス様が功を焦らず報連相を大切にしたのはむしろ褒めるべきなのよ」
ジョウジはハンスの取った選択を非難せず称賛したウェルシェに感心した。おそらくハンスが尾行する選択をして情報を持ち帰ってきてもウェルシェは同じように褒め称えただろう。
これがオーウェンならみすみす情報を逃した事を責めただろう……いや、たいていの者はどうしてもマイナス部分を見て判断しがちである。
また、なんでもかんでも褒めるのも称賛の安売りになって完全に悪手だ。一見すると簡単に思える褒めるという行為は、実はとても難しい。
「それにどうせケヴィン様の目的は分かっているから一時的に見失ってもすぐに見つけられるわ」
「確かに奴がウェルシェ嬢を狙っている以上は、その行動範囲はどうしても限定されますからね」
そして、きちんと問題の部分も指摘しながらフォローを入れている。15歳の娘が自然と人の行為を認める人心掌握術を既に身につけている。ウェルシェの才能に彼女は真に生まれながらにして王妃なのだとジョウジは納得した。
「ケヴィンの行方に関しては私に考えがあります」
レーキが
「ケヴィンが学園のどこに潜伏しているか分かりませんが、ウェルシェ嬢と接触しようとしている以上は行動しないわけにはいきません」
だが、
「学園で活動しているセギュル一派の顔は割れています」
「なるほど、その者達を追えば必ずケヴィン様に行き着くと言うわけね」
胸の前で両手をパンッと叩いてウェルシェはレーキの深謀に感心した。
「さすがレーキ様だわ」
「恐れ入ります」
ウェルシェの賛辞にレーキはニヤリと笑う。
「実は既にハンス達に学園にいるセギュル一派の動向を探らせております」
「おいおい、いつの間にそんな指示を……」
一緒にいたはずのジョウジがびっくりして、目を
「ホントにさすがね」
茶目っ気に
「それでは、これから奴らの動向を確認してまいります」
レーキは一言残してくるりと
「さぁて、これからが勝負所よ!」
その背中を見送って、ケヴィンの
ついに、ケヴィンとの最終局面をウェルシェは迎えたのだった……
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