第11話 そのデート、本当に効果ありますか?
学生食堂に着くとエーリックのエスコートでウェルシェはテラスの丸テーブルに腰を下ろした。周囲に二人の関係を印象付ける為になるべく目立つ位置を選択したのである。
エーリックもウェルシェの対面の席に座るとウェイトレスが間を置かずに注文を取りに来た。フリルをあしらった黒を基調としたミニスカートの制服が可愛らしい。
「ご注文を復唱させていただきます。ハムエッグサンドがお一つ、ボンゴレビアンコがお一つでお間違いありませんか?」
二人の注文をメモしていたウェイトレスがマニュアル通りに確認を取る。
「うん、間違いないよ」
「それでは少々お待ちください」
ウェイトレスがくるりと踵を返すと短いフレアスカートの裾が翻り、周囲にいた男達の視線が一瞬だけ彼女の絶対領域に集中した。
本能に従った彼らはすぐに視線を逸らしたが、近くにいる令嬢達にはバレバレである。
幸いエーリックの視線はウェルシェに
「ウェルシェは良かったのかい?」
「何がでございましょう?」
「いつもは友人とランチしていただろ?」
ウェイトレスが離れたのを確認してからエーリックは話を切り出した。
「ここのところお昼は僕と二人だから大丈夫かなって」
エーリックはウェルシェの交遊関係に遠慮していたので、彼女はいつもキャロルと昼食を摂っていた。こんなところが弱腰に見られるのだが、ウェルシェはエーリックのそんな心遣いを好ましく思っている。
だが、ここのところ周囲への婚約者アピールの為にエーリックと二人でのランチタイムを過ごしている。だから、キャロルには済まない事をしたと思う。
もっとも、事情を察して彼女は笑って許してくれたが……むしろ周りに見せつけてこいと発破をかけられた。
「ご迷惑だったでしょうか?」
「そんなわけないさ!」
ウェルシェがしゅんと落ち込んでみせるとエーリックは慌てた。
「二人でいるところを見せつけるだけでいいなら、僕が迎えに行った方が良かったんじゃないかと思ったんだ」
貴族の世界では一般的に女性から男性を誘う行為はあまり良く思われない。
軽薄な女と見られて蔑まれる事さえあるから、エーリックも心配したのだ。
「エーリック様も私をはしたない女と思われますか?」
「ないない! ウェルシェはとっても奥ゆかしいよ。それに一緒にいられてとても嬉しいし」
「それを聞いて安心しましたわ」
ウェルシェにとってエーリックの心証こそ大事。
エーリックはグロラッハ領に莫大な富をもたらす福の神なのだから、他の有象無象など些事でどうでも良いのである。
それにもともと他の令息達にウェルシェの方がエーリックにご執心なのだと匂わせるのが狙いなのだ。多少はしたないと思われるくらいがちょうど良い。
「他の殿方にどう思われようと構いませんわ。ですが、エーリック様に嫌われたらと思うと私……」
「僕の為に頑張ってくれているウェルシェを嫌うわけないじゃないか」
エーリックの為と言うよりグロラッハ領の為なのだが、ウェルシェはもちろん真意をきちんと彼にバレないように隠している。
「それで最近はどうだい?」
「エーリック様とお昼をご一緒するようになって格段に声を掛けてこられる殿方が少なくなりましたわ」
ここのところウェルシェにちょっかいを出す不心得者はだいぶん減った。
「それは良かった」
「これもエーリック様のお力添えのお陰ですわ」
まあ完全にゼロになってはいないのだが――
「やあウェルシェ、今日も麗しい君の姿を見られて私は幸運だな」
「……ケヴィン様」
――こんな風に……
周囲はエーリックに遠慮して声を掛けられない雰囲気であったのに、無粋な人間にはこの防波堤も意味をなさないらしい。
その筆頭ケヴィン・セギュルの登場に珍しくウェルシェは顔を
「敬称などよそよそしい。君と私仲なのだからケヴィンと呼び捨ててくれ」
「ケヴィン様、何度も申し上げておりますが、あなた様とは親しい間柄ではございませんわ。気安く呼び捨てないでくださいまし!」
猫を被っているウェルシェが語気を荒げるのはかなり珍しい。
「ケヴィン先輩、さすがに許可無く婚約者を持つ女性を呼び捨てにするのは感心しません」
自分を無視して頭越しにウェルシェを口説こうとするケヴィンに、温厚なエーリックもむっとしたようだ。
「そんなの当然じゃないか」
だが、ケヴィンは悪びれた様子もなく、ウェルシェとエーリックを驚愕させる爆弾発言を投じた――
「私とウェルシェは相思相愛なんだから」
――と……
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