ジェームズの計画

 ジェームズはこの日の自由時間、近くの図書館で過ごしていた。

 歴史書、技術書など、様々な本を読み漁っているジェームズ。

(……五十年前には海を挟んだ隣国ナルフェック王国がニサップ王国と戦争をしていた。結果はナルフェックの圧勝。その際に、ニサップ内には多数の戦争孤児が貴族の家の養子となった……。現在ネンガルド王国は戦争中でもないし何か大きなトラブルが起こっているわけでもない。貴族の家に養子入りするには、その家に特になる何かを持っていなければならない)

 ジェームズはニヤリと笑い、歴史書を閉じて別の本を開く。

(多分、ここさえ詰めることが出来たら勝算はある)

 ジェームズはかじりつくように本を読んでいた。






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「セドリック院長、お貴族様が慈善活動に来るスケジュールを見せてもらえますか?」

 孤児院に戻ったジェームズは院長のセドリックにそう聞いた。

「ん? ああ、ジェームズは文字が読めたのだったな。えっと……あった、これだ」

「ありがとうございます」

 ジェームズはセドリックからスケジュールを受け取る。

(ケイト様が来るのは明日。そして次が五日後か。それから……)

 ジェームズはスケジュールを見てフッと満足そうにヘーゼルの目を細めた。

 そして翌日。

「ケイト様、お願いがあるのですが」

「あらジェームズ、どうしたの?」

 きょとんとしているケイトに対し、ジェームズはあるものを要求する。

「それならソールズベリー家にもあるわ。今度訪問する時に持って行くわね」

「ありがとうございます」

 ジェームズは嬉しそうに微笑んだ。

 そして五日後、ケイトはジェームズが要求したものを孤児院に寄付した。

(まずは一歩前進)

 ジェームズはフッと笑った。

 そしてそこから十日後。この日孤児院に慈善活動にやって来たのはダニエルだ。

「ダニエル様、少しお話があります。よろしいでしょうか?」

 真剣な目つきのジェームズ。

「ああ、いいけど」

「ありがとうございます」

 二人は孤児院の図書室に移動した。

「それでジェームズ、一体何の話だ?」

 不思議そうに首を傾げるダニエル。

「まずはこちらをご覧いただけたらと思います」

 ジェームズはそこそこ分厚くまとめられた紙をダニエルに渡す。

「これは……」

 パラパラと渡された紙に目を通すダニエル。

「僕が書いた蒸気機関の応用に関する簡単なレポートです」

「……かなりよく書けている。それに、この孤児院にこの実験が出来る器具とかがあるなんて驚きだ。」

 ダニエルはグレーの目を見開く。

「実験器具の方は、この前ケイト様に寄付していただいたのですよ」

 ジェームズがケイトに頼んだのは実験器具であった。そこからジェームズは自由時間にひたすら実験をしていたのだ。

「そういうことか。……もしこれが実用化可能なら」

「ええ、今はまだラボスケールの段階ですが、実用化された場合、グロスター伯爵領を更に発展させることが出来ますよ」

 ニヤリと自信ありげに口角を上げるジェームズ。

「……それでジェームズ、君の望みは何だ? 何かこちらに要求するものがあるからこのレポートを見せたのだろう?」

 ダニエルはほんの少し警戒していた。

「僕をグロスター伯爵家の養子にしてください」

 ジェームズのヘーゼルの目は、真っ直ぐ力強くダニエルを見ていた。

「ジェームズを……グロスター家の養子に……!?」

「ええ。養子にしていただけて、貴族籍をいただけたらそれで結構です。僕なら必ずこの蒸気機関の応用を実用化出来ます。そしてその権利や得られる利益は全てグロスター家へお譲りいたします。悪い話ではないと思いますが」

 ジェームズはフッと笑う。ヘーゼルの目からは自信があることが分かる。

「確かにな。ただ……グロスター家に養子入りすることがジェームズの本当の目的なのか? 俺には、君はもっと別の目的があると考えている」

 探るような目つきのダニエル。

「鋭いですね。その通りですよ、ダニエル様」

 フッと笑うジェームズ。

「最終的には、ただケイト様の隣に並ぶ権利が欲しいだけです」

「ケイトの!? ジェームズ、まさかケイトのことが……!?」

 驚愕し、グレーの目を零れ落ちそうなくらい大きく見開くダニエル。

「ええ、その通りです。僕はケイト様が好きです。一人の女性として。ケイト様に出会ってから、今まで退屈だった僕の人生が色付きました」

 落ち着いてはいるが、ほんのり頬を赤く染めているジェームズ。

「……物好きもいるものだな」

 ダニエルは目の前のジェームズを物珍しげに見ていた。

「それに、ダニエル様は以前仰っていましたよね? グロスター伯爵家としても、ソールズベリー伯爵家との繋がりは欲しいと。もし僕がグロスター伯爵家の養子となり、ソールズベリー伯爵家の令嬢であるケイト様と婚姻を結ぶことが出来たら、グロスター伯爵家にとっても利益がありますよね。グロスター伯爵領は蒸気機関の開発を得意としている。そしてソールズベリー伯爵領はその原料である石炭の生産量がネンガルド王国内でトップであるので」

 自信ありげな様子のジェームズ。

「そこまで調べ上げていたのか。……分かった。この件は父上に相談してみる。恐らくこのレポートを見たら喜んでジェームズを養子にするだろう。ただ、貴族社会は君が思っている以上に複雑で魑魅ちみ魍魎もうりょう跋扈ばっこしているぞ」

 真っ直ぐジェームズを見るダニエル。

「でしょうね。だけど僕は大丈夫ですよ。今僕がやっていることが実用化まで漕ぎ着けたら、科学卿である現グロスター伯爵閣下、つまりダニエル様のお父上の後ろ盾を手に入れられますので」

 フッと笑うジェームズ。

「自信満々だな」

 ダニエルは口角を上げた。

 その後、ダニエルが父親にジェームズが書いた簡単なレポートを見せるた。するとダニエルの父は目を見開き、是非ともジェームズを引き取りたいと孤児院に連絡を入れた。そしてジェームズはそのままグロスター伯爵家の養子となり、孤児院を出るのであった。

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