彼女と結ばれる普通じゃないけれど正当な方法

別世界だと思っていた

 ネンガルド王国王都ドルノンのとある孤児院にて。

「ねえ、ジェームズ、部屋の時計壊れちゃった。どうしよう?」

「ああ、この程度なら修理出来るよ。貸してごらん」

 幼い少年から時計を受け取るジェームズ。褐色の髪にヘーゼルの目の少年である。

「はい、これで大丈夫」

 ジェームズは軽々と時計を修理し、幼い少年に渡す。

「わー! やっぱりジェームズは凄いや! ありがとう!」

 幼い少年は目を輝かせていた。

「お安いご用さ」

 ジェームズはフッと笑う。しかしヘーゼルの目はどこか冷めていた。

「ジェームズ、どうしよう? 飾ってたお花が萎れちゃったの。お気に入りのお花なのに」

 今度は泣きそうな幼い少女が助けを求めていた。

 ジェームズは少女が持っている花に目を向ける。

「これは湯揚げをしたら復活するかもしれない。先生にお湯を沸かしてもらおう。それから、冷水を花瓶に入れておくのと、不要な新聞紙も準備して」

 少女はジェームズに言われた通り、孤児院の先生にお湯を沸かしてもらいに行った。そして冷水と新聞紙も用意する。

「ジェームズ、準備出来たよ」

「分かった」

 ジェームズは手際よく余分な葉を落とし、茎の先端を少しだけ出して、新聞紙をきつめに巻く。そして茎の端を斜めに切り、沸かしたお湯に20秒程度浸ける。そしてすぐに冷水に浸けた。

「これで1時間後くらいにはその花も元気になるよ」

 ジェームズはフッと笑う。しかし、やはりヘーゼルの目はどこか冷めていた。

「ありがとうジェームズ!」

 少女は元気よくお礼を言い、他の子供達と合流した。

(……退屈だ)

 ジェームズはため息をついた。

 幼少期、両親を亡くして以降孤児院で暮らしているジェームズ。今年で13歳になるので孤児院の中では年長の部類だ。

 ジェームズは幼少期から孤児院の先生に本を読み聞かせてもらっただけでネンガルド語の読み書きをマスターしたり、本を読んだだけでその分野のことを全て理解出来たりした。何事もすぐにコツを掴み出来るようになっていたのだ。何事も簡単に出来るようになっていたことから、ジェームズは退屈していた。

「先生、今日もすぐそこの図書館に行ってきます」

 ジェームズの趣味は読書である。しかし、孤児院の本は全て読み尽くしているので先生に許可を取り近くの図書館に行く。この図書館は老若男女、身分問わず誰でも入れる。

(まあ、図書館の本もあと少しで読み尽くすんだけどね。技術系で新しい本が入っていないかな?)

 ジェームズはまだ読んでいない本をパラパラとめくった。内容は頭にスッと入ってくる。ヘーゼルの目は冷めていた。

(大体こんなものか)

 ジェームズは読み終えた本を閉じ、元に戻した。遅くなるといけないので、ジェームズは図書館を後にする。

 孤児院へ帰る途中、道ゆく人々の会話が聞こえてきた。

「王太女アイリーン様のご結婚が1週間後に迫っているようね」

「ああ、知ってるよ。アイリーン様のお相手は確か、ナルフェック王国のレオ王子だったかな?」

「ええ、レオ・マリレーヌ・ルイス・キャサリン様と仰るみたいよ。結婚パレードではアイリーン様もレオ様もこの辺りを通るみたい」

「アイリーン様の姉君のコーネリア様が亡くなられた時はどうなるかと不安になったが、落ち着いてくれて安心したよ」

「そうね。1週間後のパレードが楽しみだわ」

 ネンガルド王国の王太女で次期女王のアイリーン・プリシラ・ヴィクトリア・シャーロット。彼女は今年17歳になる。本来はアイリーンの姉コーネリアが王太女であったが、数年前に病死した。よってアイリーンが王太女になった。そしてネンガルド王国とナルフェック王国の同盟強化の為、アイリーンはナルフェックの王子レオ・マリレーヌ・ルイス・キャサリンとの結婚が決まっていた。ちなみにレオはアイリーンより1つ上の18歳である。

(王太女の結婚ね。まあ、王族や貴族のことは、僕にとっては別世界のことだね)

 ジェームズは興味なさそうであった。






−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−






 1週間後。王都はアイリーンとレオの結婚式で盛り上がっていた。パレードでアイリーンとレオはジェームズ達の孤児院前も通る。

 ジェームズは孤児院の2階から他人事のようにそれを眺めていた。

 ネンガルドの王族の特徴である、夕日に染まったようなストロベリーブロンドの髪とサファイアのような青い目のアイリーン。ナルフェックの王族の特徴である、月の光に染まったようなプラチナブロンドの髪にアメジストのような紫の目のレオ。2人は息を呑むほどの美しさだった。

 孤児院の子供達は目を輝かせながらパレードを見ていたが、ジェームズにとってはどうでもいいことであった。

(やっぱり関わることのない別世界だね。そんなものを見るより、孤児院を出た後の自分の将来を考えた方がいい)

 冷めた目で軽くため息をつくジェームズであった。

 そんなある日。

「明日はまた貴族の方がここに訪問にいらっしゃるから、くれぐれも失礼のないように」

 孤児院の院長セドリックからそう注意があった。

 ネンガルド王国の貴族はノブレス・オブリージュの一環として、孤児院へ慈善活動に訪れたり寄付をしたりしている。よってジェームズがいる孤児院にも定期的に貴族が訪れるのだ。

(またか。まあどうせ碌でもない人が来るんだろうな。今までも無意識的に平民や孤児を見下す貴族しか来ていなかったのだし。まあ、多額の寄付は僕達の暮らしが楽になるからありがたいけれど)

 またジェームズの目は冷めていた。

 しかしその翌日……。

(……これはどういう状況だろうか?)

 ジェームズは目の前の自分より少し年上の少女に対して困惑していた。

 手入れされた艶やかな赤毛にエメラルドのような緑の目の、気の強そうなはっきりとした顔立ちで可愛らしい少女。シンプルで動きやすそうだが上質のドレスを着ている。目の前の彼女は前のめりになり、エメラルドの目をキラキラと輝かせながらジェームズを見ていたのだ。

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