だからといって

ゆゆし

第1話  目覚め

「いい天気だなぁ!」

久しぶりの休日に、風に揺れる洗濯物を眺めながら日向ぼっこをしていた。


バスタオル、フェイスタオル、バスタオル

規律正しく、速く乾くこの干し方は、どこかのテレビ局の特集を真似している。


太陽の恵みを身体いっぱいに浴びながら


キレイだなぁ…と

小さな幸せを噛み締めていた。


「ただいま!」夫の声がする。

自分のやりたいことが上手くいったのだろう。機嫌の良い時の「ただいま」だ。


キッチンに降りて行き、スマホを見ている夫に声をかける

「チャーハンにする?」

「ああ」

スマホを見たまま小さく頷く夫。


夫曰く

いつもスマホで大事な連絡を取り合っているそうだ。


だから、目も合わさず返事をする時に、妻の私の顔がほんの少し寂しそうだったり、怒りを堪えていたりしても気付くことはない。


チャーハンが出来上がり、食卓に置く。

「お水でいい?」と私

「麦茶飲むからいいよ」と夫

簡単に昼食を済ませた私は、2階の自分の部屋に行く。


何でもない日常なのに、いつも心がモヤモヤしている。


原因はわかっている。


一人で言う「ごちそうさま」

一人で話す「2階に行くね」

夫と1度も目が合わない。

目の前にいるのに、まるで私がいないみたいだ。


「残酷だね」

何も聞いていない夫のそばで、けれど、絶対に聞こえる声の音量を使って夫に抗議したこともある。

若い時は、

泣いて騒いだこともある。

「行かないで」と頼んだこともある。


けれど、もう疲れた。


明日から仕事だ、疲れを取らなきゃ、少し昼寝でもしよう。


ついさっきまで、小さな幸せを感じていたのに


「まぁいっか!」

自分を守る為の言葉を

いつもの様に小さく呟いたことに気付かない私がいた。







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