11

 どのくらいそうしていただろう。時間ももう遅い。

「眠いならベッド行くか?」

 湊から柚子が眠れてないことを聞いていた。だからと言って誰かといれば眠ることが出来るとも考えてにくい。

 それでも少しでも……と思い、ベッドへ行くように促す。

 だけどそれに対して何も答えずにいる柚子は、零士から離れようとしない。

 小さな子供が親から離れないように。


「柚子」

 名前を呼び、柚子を抱き上げた。

(軽い。こんなに軽かったか?)

 柚子はこの3週間ですっかり痩せてしまっていた。元々、細い子なのに更に細くなってしまったみたいだった。


 寝室のベッドに下ろすと、クローゼットから零士のパジャマを出す。

「とりあえずこれに着替えろ。そのままだと服シワになるだろ」

 そう言ってパジャマを手渡す。

 それを受け取った柚子は、零士を見上げる。

「俺、向こうにいるから」

 そう言ってリビングへと向かう。




     ◇◇◇◇◇




 学が捕まったと聞いた柚子は何も思わなかった。よかったとも思わないし、安心したとも思わない。ただ、義務的にその報告を受けただけだった。

 湊はどんな思いで柚子に話したのか分からなかった。

 だけど、湊も柚子に何も出来ないことを悔やんでるのを柚子は感じ取っていた。そんな湊に悪いという思いがあって、湊がバイト行ってる間にフラフラとアパートを出て行ったのだ。


 そして零士のマンションまで来てしまった。来たのはいいけど、どうしたらいいのか分からなかった。だから玄関前で動けなかったのだ。

 零士が玄関を開けなければそのまま玄関前にいたのかもしれない。


 手に持った零士のパジャマを見つめていた。そのパジャマに着替えることはしないでリビングにいる零士の元へと向かう。

 ソファーに座ってる零士に抱きついていた。

「柚子っ」

 驚いた零士は柚子の頭を撫でる。

「着替えないと……」

 零士がそう言うが、柚子は零士にしがみついて離れない。




「……れい……じさ……っ、抱いて……」




 柚子の言葉に耳を疑う。

「な……に」

「お願い……。忘れ……たいの」

 抱きついたまま言うから耳元で柚子の声が響く。

 震える柚子が……、必死に自分の思いを話す。

「忘れたい……。忘れたい……の」

 涙声でしがみつく。そんな柚子を突き放すことは出来ない。

 だけど抱くことが正解なのかも分からない。


「柚子」

 背中に手を回して、しっかりと抱きしめた。さすって落ち着かせようとしていた。

 だけど、身体の震えは治まらない。

「零士…さん……。お願い……」

「出来ないよ。今の柚子にそんなこと出来ない」

 恐怖で震えてる柚子にそんなことは出来ない。嫌なことを思い出させるだけだ。

「柚子。とにかく、着替えておいで」

 頬に触れ涙を拭う。

 そんな零士を見て従うしかなかった。




     ◇◇◇◇◇




 零士が寝室に入ると、零士のパジャマを着た柚子がベッドにの上でうずくまっていた。

「柚子」

 背中からすっぽりと包み込むように零士は柚子を抱きしめた。

「目を閉じて」

 耳元で囁く。

「眠るまでこうしてるから。魘されてたら起こしてやる。だから安心して」

 安心させる為に抱きよせて朝までこうして眠るつもりでいた。それくらいしか、零士には出来ないと。


 ウトウトとしては目が覚める。またウトウトとして目が覚める。

 柚子はその繰り返しだった。

 抱きしめられてのからなのか、落ち着きもなく何度が寝返りもする。

「眠れない?」

 柚子と目が合った零士はそう聞いた。

 微かに笑うだけで柚子は何も答えない。

 目が赤くなっている柚子の瞼にそっと唇を触れさせる。


「零士さん……」

 泣き出しそうな顔をして見てる柚子が、こんな時なのにそう思うのはおかしいとは思うが、可愛くて可愛くて仕方ない。

「柚子……」

 抑えきれなくなった零士は柚子にキスを落とす。

 今までよりも優しく。


「れ……じさ……ぁん」

 柚子はもっと触れて欲しいと願う。忘れたいと思うのもそうだけど、零士に触れ欲しいと。

 


「そんな顔、すんな……」

 自分の中の理性と本能がぶつかり合っている。今の柚子とは身体を重ねるなんてことは出来ない。けど本能では柚子と繋がっていたい。柚子を抱きたいと願った……。

 

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