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「ほんとにお前はッ!」

 柚子の顔を見た途端、湊は大声で怒鳴り散らす。芽依はほっとして胸を撫で下ろしていた。

「心配かけんじゃねーよ!」

「ごめんなさい……」

「はぁ。無事で良かった」

 湊はその場にしゃがみ込んでしまった。そのくらい、柚子が心配で仕方なかった。

「今日の事は親父たちに言うんじゃねーぞ。言ったら二度とライブに行かせて貰えなくなるからな」

 ぽん……と、柚子の頭に手を置くと「帰るぞ」と車のドアを開けた。


「柚子、ごめんね」

 車の後部座席で芽依は柚子に謝っていた。

「私がライブ誘ったから」

「芽依が悪いんじゃないよー」

「でも……」

 そんなやり取りを聞いていた湊は「芽依」とバックミラー越しに声をかける。

「ライブ後のあの人混みは仕方ない。とりあえず柚子いるからもう自分責めないで」

「はい……」

 湊の優し声が芽依に向けられる。湊は見た目はちょっと厳つい風貌をしているが、本当はとても優しい目と声の持ち主。子供の頃からからかわれるくらい美形なのだ。それがイヤで厳つい風貌になった。それを知ってる芽依はこんなに厳つい湊が怖いとは思わない。柚子の友達何人かは湊が怖いと言う子がいた。でも芽依は全然そんなことなく、本当に優しいことを知ってる。今日も柚子に怒ったのは本当に心配してるから。それに対して誰も悪くないと言うのはやっぱり優しいから。


「それにしてもどこまで歩いて行っちゃってたのよ」

 芽依は柚子に尋ねる。

「どこだろ……」

 柚子にはどこまで歩いていたのか分かってない。

「それにどうやってあの場所まで戻ってこれたのよ」

「よく分からない」

 柚子はREIJIと会ったことを言わない方がいいのかもと考えていた。そもそもあれは本当にREIJI本人だったのかと。夢でも見てたのかと。

(有名人があんな風に歩いてるわけないよね)

 あれは似た人なんだと思うようにした。

「でも本当に良かった」

 芽依の安心した顔を見て申し訳なさそうにする。楽しかったライブの後にこんなに心配させてしまうなんて柚子だって思ってもいなかったんだから。




     ◇◇◇◇◇




 帰り道は渋滞にハマってしまい、地元に戻ったのは夜中の1時を回っていた。芽依の家の前に車を停めると家の明かりは点いていて、芽依の両親がまだ起きてることを確認出来た。

 カチャッと、家のドアが開き中から芽依の父親が出てきた。

「おじさん」

 湊は車から降りて頭を下げた。

「遅くなってしまってすみません。渋滞にハマってしまいました」

「湊君。ありがとう。送り迎えしてくれて」

 そう言うと芽依に向き「湊君にお礼は言ったのか?」と聞いていた。

「言ったよー」

 芽依はそう言うと後ろを振り返りバイバイと手を振った。芽依の父親はもう一度頭を下げると芽依と一緒に家の中へと入っていく。

「親父たち、待ってるかな」

 車にもう一度乗り込んだ湊は自宅の前まで車を走らせた。というより動かしたといった感じで移動させた。自宅には父親の車の他にもう一台停められるスペースがあり、湊はそこへ車を停めた。

「いいか、柚子。今日はぐれたことは絶対言っちゃダメだぞ」

「うん」

「よし。じゃ家入るぞ」

「はぁーい」

 全く……と湊はため息を吐く。柚子は湊なら自分をどんな時でも自分を守ってくれると知ってるのだ。湊の前だと甘えたがりな妹になってしまうのだ。



「おかえり」

 と、母親が出迎えてくれた。まだ起きていてくれた両親に申し訳なくなる。

「遅かったな」

 リビングから顔を出した父親は顔には出さないがとても心配していた。

「渋滞にハマった」

「大変だったね。ご飯は?」

「いらない。途中軽く食ってきた」

「柚子は?」

「今から食べたら太るよー」

 母親に言う柚子は体型を気にする年頃の女の子だ。

「じゃ順番にお風呂入っちゃいなさい」

「はーい」

 柚子はそう言って階段を上がり自分の部屋へと戻る。湊も同じように階段を上がっていく。柚子と湊の部屋は2階の隣同士。今湊はひとりで暮らしてるとはいえ、ベッドなどの家具はそのままになっていていつでも帰って来れるように母親の手入れも行き届いてる。

「先、フロ入れよ」

 そう言った湊はパタンと部屋のドアを閉めた。


 部屋に戻った柚子は今日あったことを思い返していた。ライブであんなに夢中になり感動してしまったこと。ライブ終わりに芽依とはぐれてしまったこと。はぐれてしまったことでREIJIと会ったこと。その全てが夢ではないのかと、信じられない思いが胸がいっぱいになっていた。


 REIJIと会ったことで柚子の運命も変わっていく。そんなことは柚子はまだ知らなかった。

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