第1章
1
「ねぇ!いいでしょ、
小学生の時からの親友の
「一緒に行って!」
「でも……」
「お願いっ!」
「うちの親、厳しいって知ってるでしょ」
「知ってるけど……ッ」
この親友、平川芽依が何をお願いしてきてるのかと言うと、ロックバンド「BLUE ROSE」のライブに一緒に行こうと誘ってきてるのだ。
「BLUE ROSE」は見た目が派手で、音楽も派手。とても男の人だとは思えないくらいキレイな人たち。
こんな柚子でも知ってるくらい。
「芽依、BLUE ROSE好きだったっけ?」
「もう、凄いのよ!」と興奮気味に私、愛川柚子に熱弁する。
長い付き合いだけど、芽依がそういうの好きだとは思ってもみなかった。
「実はね、従兄弟にBlu―ray貸して貰ってそれでハマってしまったのよ」
えへっと笑う芽依はなんだか可愛い。
「親がなんて言うか分からないよ」
(アイドルのコンサートならまだ大丈夫かもしれないけど、ロックバンドのライブなんて……)
「絶対、許してくれないよ」
「でもっ!」
「芽依が説得してくれるなら行ってもいいけど……」
「えっ!」
芽依は最初は驚いてそして考え込んだ。考え込んだ結果、その日のうちに柚子の家へとやって来た。
午後8時。父親が帰宅する時間。
リビングから芽依は玄関にいる、父親に笑いかけた。
「おじさん、こんばんは」
「芽依ちゃん」
目を丸くした後、にっこりと笑う父親。普段そんな笑顔を見せない。芽依にそんな笑顔を向けるのは芽依が柚子の両親に信用されているからだ。
「こんな時間まで遊んでちゃダメだよ」
そう言ってる父親は迷惑とは思ってなさそう。
「おじさんにお願いがあって」
と、芽依。
その言葉に父親がまた目を丸くする。
そして芽依は父親にBRのライブのことを話し始めた。
「う~ん……」
考え込む父親はBRのことを知っているのだろうか?と柚子は父親を顔を伺っていた。
「今の子はああいうのがいいのかねぇ」
呟きからして知ってるらしかった。「母さん」とキッチンにいる母親を呼ぶと「どう思うかね」と聞いた。
柚子の両親、厳しいけど頭ごなしに「ダメ」とは言わない。こうやって、父親と母親で話して決めることが多い。
「そうねぇー」
母親も考え込んでそして柚子を見た。
「もう高校二年生だものね。そういうコンサートとかに行ってみたくなるわよね」
「でもライブは夜だろ?」
「その日は特別にしたら?芽依ちゃん、会場はどこ?」
と、芽依の方を見ると芽依はチケットを出して◯◯ドームと答えた。
「ここなら
「そうか」
と、兄を巻き込むことに決まった。
で、兄はというと……。
『はぁ~!なんでそうなるんだよッ!』
スマホ越しに響く叫び声。スピーカーにしてるから余計に響く。
「湊、お願いね」
有無を言わせない言い方で母親がスマホから離れる。
そう、これはもう決定らしい。
「お兄ちゃん、ごめんねー」
『はぁ……全く。で、いつだよ』
「芽依、いつ?」
「7月21日」
『すぐじゃん』
「お兄さん、ごめんなさい」
『いいよいいよ。会場にも連れていってやるよ』
「いいの?」
『可愛い妹の為だからな。じゃ、またあとでな』
兄はなんだかんだって優しい。というより柚子に甘い。
「さ、話は終わったら芽依ちゃんはお家に帰らなきゃ」
時計を見ると午後9時を越えていた。
「お父さん、芽依ちゃんを送って行って」
「はいはい」
こうやって見てると柚子の家の力関係は母親の方が強いようだ。母親に言われすぐに立ち上がり「さ、芽依ちゃん」と芽依に笑いかけた。
「お邪魔しました」
芽依は母親に言うと「気をつけてね」と笑う。
気をつけても何も、芽依の家は目と鼻の先ってくらい、近い。
「私も行くっ!」
柚子も一緒に玄関を出ていく。
柚子の家から2軒隣の家が芽依の家。小学校入る前にここ一帯の分譲一軒家が売りに出されていて柚子の愛川家と平川家が住み出したのだ。その時から柚子と芽依は一緒に過ごしている。
「じゃね、柚子。おじさん、ありがとう!」
柚子の両親に取って芽依は我が子同然の存在だった。そのくらい、常に一緒に過ごしていた。小学生の頃は家族同士で出掛けたりもしていた。
そのくらい近い存在だった。もちろん、平川家に取っても柚子はそんな存在なのだ。
「お父さん、ありがとうね」
まさか両親がライブに行くことを許してくれるとは思ってなかった。柚子は父親の隣を歩きながら笑った。
「気を付けて行くんだよ」
父親の言葉に黙って頷いた。
◇◇◇◇◇
ライブ当日。
柚子と芽依は湊が運転する車に乗って会場まで向かった。大学生の湊は大学に入った時に父親から中古の車を贈られていた。その車内で芽依のBRのどんなところが凄いとかどんなところがカッコイイとか。そんな話しかけるばかりだった。
「じゃ、お兄ちゃん」
会場近くのコンビニ前で湊の車を降りたふたり。湊は柚子に「後で電話しろよ」と告げてまた車を走らせて行った。
「早く早く!」
柚子の手を引っ張って走る芽依。そんな芽依に必死に追いかける柚子。
「待ってっ!芽依!」
柚子はそう言うが、芽依はその声が聞こえてないくらいに興奮状態だった。
会場周辺に着くとたくさんの人で埋め尽くされていた。グッズを売ってるブースには長蛇の列。BRと同じ服装をしている人もいた。
(あれがコスプレ……)
初めて見る光景に柚子は圧倒される。芽依は何度目かのライブらしく目をキラキラさせてる。
「ね、凄いでしょう」
笑う芽依は私連れてグッズ販売の列に並ぶ。
「私も並ぶの?」
「うん。買わなくていいの。一緒に並んでて欲しいのよ」
時間かかるからひとりで並ぶよりもふたりで並んでた方がいい。そう思った芽依は柚子を列に連れてきていたのだ。
(みんなよく並べるなぁ)
BRのファンではない柚子は列を眺めながらそう思った。柚子にはここまで熱狂出来るものはないから少し羨ましくもあった。どのくらいならんだだろう。時間は分からないくらい並んで漸くグッズ販売のブースの前。芽依に「これだけは持って」とペンライトを渡された。芽依は他にも色々と持っていた。これら全てを芽依は買ったのかと柚子はビックリしていた。
「ペンライトのお金は渡すよ」
「いいよ」
「だって芽依。チケット代だって受け取らないじゃない」
「今回は無理矢理連れてきたようなもんだしね」
芽依はそう言うとショッピングバッグを肩にかけて笑う。
「これで好きになってくれたらいいなって」
芽依がライブに誘っていたのはそういうことらしい。柚子にBRを好きになって欲しい。一緒にライブに行って欲しい。それが芽依の願いだったようだ。
「でも好きになるかどうかは分からないよー」
苦笑する柚子に芽依は「見れば分かるよ」と笑った。
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