5日目①

「ん…?ここは…?」

「大河内君、目が覚めたのね!」

大河内が目を覚ました。擦り傷だらけだが、大きなケガは無かった。

しかし昨日助けた後からずっと眠り続け、今はもうお昼過ぎだ。

「何を言ってるんだ…君達はいったい…眼鏡が無いからよく見えないぞ…?」

「ごめん、眼鏡は無くしちゃったんだ大河内君。」

「君は…まさか鈴木君?僕はどうしたんだ…?確か昨日の夜鬼久保が暴れて…

虎もいたような…そうか…僕は死んだんだな…?」

「いや、それが実は…」

「そしてここは天国…?それとも地獄…?

死んだクラスメイト達が大勢いるじゃないか…」

なんだか勘違いしているようだが…

「あのさ…」と口を開きかけて佐藤さんに止められた。

「鈴木君、大河内君ってサブキャラなんでしょ…?変に本当の事を話すと

主人公チームと接触したがるんじゃないかしら…?

今は死んだ事にして、ここでゆっくり休めばいいって思わせておいた方が

後々楽なんじゃないかな…?」

確かに。

「大河内君、ここは天国だよ、よく頑張ったね、ここは安全だ。

もうゆっくり休めば良いから。もう大丈夫。」

そう言ってそっと大河内君の体に手をかけた。

大河内は目に涙を浮かべ、「そうか、僕は死んだのか。

もう休んで良いんだな…」としきりに繰り返していた。

今まで十分活躍したんだ。今こそゆっくり休む時。

「そうだよ、もう頑張らなくていいんだよ…」

僕はにっこりと笑いかけた。


 さて、現在洞穴の中に救出した生徒は

田中、佐藤さん、菊池さん、森山さん、木村君、鬼久保の取り巻きだった三上君、

山井さん、橋元さん、森の中に倒れていた元井君、竹内君、広場で助けた村山君、

山本君、林さん、小林さん、瀬名さん、

そして大河内、男子は僕を含む9人、女子は8人、結構な大所帯だ。

みんなの怪我の処置は渡辺さんの応急セットや高橋君の包帯で何とか事足りた。

鬼久保の取り巻きだった3人はすっかりしょげかえっているので

恐らく今後大きな問題は起こさないだろう。

昨日助けたみんなは心も体も疲れているだろうから、今日はゆっくり休んでもらう。

当然、今までの経緯と法則は嫌と言うほどたたき込んでおいたが。

だいたいみんな変な顔で僕を見る。いや、もう慣れたけど。

とりあえず午前中は僕と佐藤さんで今回加わったメンバーの教育を行っていた。

田中と木村君が偵察に、森山さんと菊池さんが食料集めに向かってくれている。

先に帰ってきた森山さんと菊池さんが手にする食料をみんなに分け与え、

洞穴脇にある水場の事も伝えると、変な顔で僕を見ていたみんなの目はたちまち

神を崇める目に変わっていた。よろしい、敬いなさい。


「大変だ大変だ~!」

偵察隊が帰ってきた。

「昨日の大騒動で相当数死んだ事になってるぜ。」

田中が語ってくれた。

昨日恐らくは主人公チームとやりあったのだろう。

暴れた鬼久保も命を落としていた。

もちろん、4~8班のモブチームも全滅。(と表向きはそう言うことになっている)

今生き残っているのは1班全員、2班の崎森さんと長谷川さん。

「7人か…随分減ったな…」

全員が無言になってしまった。

この中で救う余地があるのは長谷川さんか…

しかし最後の7名の中に入るという事はサブキャラなのかもしれない。

「油断せずに、でも救えれば救う方向で…」

今の僕にはそう言う事しかできなかった。

「でも、まだあの虎が辺りをうろついているなら、ちょっと怖いよね。」

佐藤さんが心配そうに言った。

「いや、あの虎は東雲君達がなんとかしたらしいよ。」木村君が言った。

そういえばそんな夢も見たような…

「え、なんで知ってるんだよ?!」一緒に行動していた田中が驚く。

「君に貸してもった双眼鏡で唇を読んだんだ。」さらっとすごい事を言う木村君。

「残っていた罠に虎をおびき寄せて仕留めたらしい。」

東雲達は何度か広場へ来たけれど、最終的に拠点を移動したらしい。

そりゃ、あんな地獄絵図の所にはいたくないよなぁ…

となると彼らの新しい拠点の方も偵察しないといけない。

その辺はぬかりなく木村君が情報を収集してくれていた。

「唇を読んだ限りは、次の拠点は森の奥の川の近くらしいよ」

木村君、その特技はいったいどこで培ったの…?というのは深く追求せず…

実はすごい人なんじゃないか…?


 午後からは偵察隊と食糧集めとに別れ行動する事にした。

僕、田中、佐藤さんは食料集め、木村君、森山さん、菊池さんは

広場へと偵察に行く事に。その他のメンバーには留守番をお願いした。

僕らはいつもの場所を巡り、木の実などまだ取りきっていないものを集めてまわる。それでもメンバーが増えてきて少し足りないかもしれない。

田中と佐藤さんと話し合い、新規開拓をする事にした。

新しい場所の安全を確保する為、恐る恐る進む僕ら。

しばらくすると田中が「おい、あれ…」と言って走り出した。

「おい田中!慎重に!危ないぞ!」という僕の言葉にも耳を貸さず

田中は慌てて走って行く。

何事かと思い僕と佐藤さんは顔を見合わせて後を追った。

近づくと誰か倒れているのが見えた。

あれは…一ノ瀬さん…!?

木々が立ち並ぶ茂みの中に倒れていた。

大河内がやられた(事になっている)んだ。

そろそろ主要メンバーも危なくなってきているはず…

やばい…昨日の騒動ですっかり忘れていたけど

恐れていた自体が起こってしまったのかもしれない…

内心バクバクの僕をよそに、田中が慌てて彼女に駆け寄る。

「まだ息があるぞ!」

「え…?」

田中は一ノ瀬さんの横に膝をついた。僕らは後ろからのぞき込む。

あちこちに細かい傷がついており、首に絞められたような跡があった。

「誰かに殺されかけたのか…?」

今残っているメンバーで彼女を殺そうとするとは…真宮か?

ただ、彼女が死なずに生きている事が気にかかった。

「これは物語の根幹に関わる事かも知れない。予想される展開としては

倒れている彼女を主人公チームが発見して殺人犯がいるって事がばれるって

展開じゃないか?」僕はいつもの通りストーリー展開を予想する。

「お前一ノ瀬さんを見殺しにする気か!?」田中が怒鳴る。

「…違うよ。彼女を助けるのに必要なんだよ…」僕が言う。

「助けるのに必要…?」田中はまだよく分かっていない。

「大河内と同じように、ストーリーをクリアしないといけないだろ?」

上手く一ノ瀬さんを死んだ事にし、それを主人公チームに分からせないといけない。

しかし今はまだどうすればいいか上手く考えがまとまらなかった。

「とにかくこんな所に放っておけないから、いったん洞穴に連れて行きましょう?」佐藤さんが促してくれた。田中がほっと息をつく。

田中が一ノ瀬さんの事をずっとずっと好きだったのは知ってるし

これで彼女を見捨てたら、例え生きて帰ったとしても

田中は一生立ち直れないだろう…

そんなのは僕だって望んじゃいない。

物語をクリアする…のはもちろんなのだが、ひとつ懸念事項がある。

一ノ瀬さんがこちら側にくるかどうか、と言う事だ。

もし東雲の元へ帰られたら、それこそ僕ら全員の命に関わる。

「彼女を助ける代わりに、絶対に彼女の事離すんじゃないぞ…!」

田中に念押しをする。

「まかせとけ!!」

お姫様だっこをしようとしたようだが無理だったようでそっと背中に背負い直した。おい田中、顔がにやけとるぞ。

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