アドベントカレンダー症候群

久里 琳

12月3日(日) 明莉


 終わってしまった。

 みじかい廊下の先でわたしはまるきり無機物ですって顔してつめたいドアを、しばらく明莉あかりは脱け殻みたいな目で眺めていた。

 ドアはあくまで黙って開くようすはまるでない。

 ついさっき和人かずとが出てったドア。

 がちゃんとおおきな音がしたきり黙りこんでしまってもう明莉もそのドアに触れようとしない。なにか意地でも張ってるみたいに。


 ふいにスマホがみっつたてつづけに音を鳴らして、明莉はようやっとドアから視線を剥がした。友だちからの、あさっての約束の確認だ。

 明莉が破局したことをむろんこの子は知らない。知るわけもない。ドアも知らない。知っているのは明莉と和人のふたりだけ。


 メッセージを読みおわっても明莉はスマホから顔を上げなかった。

 白い壁に吊るしたアドベントカレンダーがやたら明るくって直視できない。きょうからクリスマスのカウントダウンが始まるはずだったのだ。これにクッキーを詰めてるあいだ明莉も和人も陽気にはしゃいで、七日後に別れが待ってるなんて思いもしなかった。


 「3」と刺繍されたポケットは幸福なオレンジ色だ。そこから明莉はクッキーを取り出し、うわのそらでセロファンの包装をやぶった。

 奥歯で嚙みくだいてじゃりじゃりするのを飲みこんだあとはじめて、あれっイチゴ味なんだと気づいた。

 残るクッキーは21個。いまはイチゴな気分じゃない。


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