034.迷いの森の守護者

 勇者である僕は迷いの森にあるという、勇者しか抜くことが出来ない剣を求めてやってきた。

 森の近くの村で情報を集めると、皆口を揃えて言った。


 迷いの森のことなら森の入り口の小屋にいるじいさんに聞いてみな。


 その言葉を信じて、僕は森の入り口の小屋を訪ねた。

 そこにいたのは杖をついた老人だった。



「ああ、儂は迷いの森のことならなんでも知っておる。

 この森で困ったことがあるなら何でも言うが良い。





 なんせ80年ずっと迷っておるからな。

 迷いの森のプロと言ってもいい。

 日々迷いながら作成した地図もある」


「純粋な疑問なのですが。

 地図があって何故迷うんですか?」


 その地図信用できるのか?


「わしの本当の家はこの小屋じゃなく迷いの森の中心部にある。

 そこにだけはどうやっても辿り着かんくてな、仕方なく森の入り口に小屋を建ててそこで寝泊まりしておるんじゃ。

 ああ、じゃが安心せえ、お前さんの目的の剣は中心部とは別の場所にあり、地図の通りに進めば辿り着ける場所じゃ」


「では、ぜひその地図をいただけませんか?」


「構わんよ。わしはもう覚えておるしな。ただ、もし万が一中心部にたどり着くことが出来たら、そこにある墓に花を供えてくれんか?

 家に帰れないのはもう諦めたが、妻の墓参りを諦めたらあの世に行った時に怒られそうでな。行けないまでも花くらいは供えてやりたいんじゃ」


 そんな会話をして小屋を出て、地図のとおりに東に進んだ。


 直後、落とし穴に落ちた。

 待て、落とし穴は小屋から北にあるはずだろう。

 その後も地図は全く頼りにならず、ことごとく罠に引っかかった。

 しかし、辿ってきた道のりと地図を照らし合わせて僕はあることに気づいた。


 90度回転させれば地図と一致する。


 たぶん、あの爺さん……地図は読めるが方角が分からないタイプの方向音痴だ。


 そして、90度回転させた地図どおりに僕は伝説の剣のところまでたどり着いた。

 そっと剣を抜いた時、隣にボロボロに風化したお墓があることに気付いた。


 多分、これが奥さんのお墓じゃないだろうか。

 すぐ近くに廃墟もあるし。

 花を、という話だったが、ちょっと掃除もしていこう。

 この惨状は故人に対しあんまりだ。

 あと、ここたぶん中心部じゃなくて森の端近くだと思う。


 爺さん、地図書くのも苦手だったのでは?縮尺めちゃくちゃだったぞ。

 それに剣のすぐそばに墓があったんだけど、これ気付かないとか、ボケ始めていたりするんじゃ?


 もやもやした思いを抱えつつ、墓と家の掃除をして墓へ花を供えた。

 そして90度回転させた地図をもとに小屋の近くまで戻ってくると、爺さんは村の住人と話し込んでいた。

 剣を抱えて戻ってきた僕に気が付かず、爺さんたちは大きな声で話していた。


「最近婆さんの墓掃除してなくてなー。

 昨日の兄ちゃんがせめて花だけでも供えてくれたら儲けもんだわ!!」

「何が最近だよ。この30年ずっと掃除してないだろ、じっちゃん。

 ばーちゃん絶対怒り狂ってるぞ」


 ん?つまり、墓の場所は最初から分かってたってことか?

 聞き捨てならない話をしてるなあ。


「それに、地図も方角間違えて書いたやつそのまま渡したんだろ?

 迷いの森って言われ出したの、じーちゃんが地図配るようになってからなんだからな。

 それまでは普通の森だったのに、下手に地図があるから迷うやつが多発したってこと分かってんのか?

 繁忙期にガチで迷ったやつの捜索に駆り出されるのはキツい」


「何言っとる!

 おかげで次の村に行くまでに夜になるからとお前さんところの宿に泊まっていくんじゃから良いだろう!

 かなりの儲けと噂じゃのう……?」


 村ぐるみでの詐欺??

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